しまむら・ひでき 1941年東京生まれ。東大理学部卒、同大学院修了。理学博士。北大教授、同地震火山研究観測センター長、国立極地研究所長などを経て現職。「富士山大爆発のすべて」(花伝社)など著書多数。新著は「完全解説 日本の火山噴火」(秀和システム)。

300年前に大噴火した富士山の宝永火口(右)=国土交通省富士砂防事務所提供

 日本人の心のふるさと・富士山。美しい姿は誰にも愛される。だが、もうひとつ、活火山という顔がある。過去には何度も噴火を繰り返し、大きな被害をもたらした。ここ三百年は噴火していないが、地震や火山に詳しい島村英紀・武蔵野学院大学特任教授は「いつ噴火してもおかしくない」と警鐘を鳴らす。

■何度も大噴火 予測は不能

 ――富士山のどっしりした姿を見ると、噴火などしそうにもなく見えます。

 「しかし、過去には何度も噴火しています。延暦噴火(800~802年)と貞観(じょうがん)噴火(864~866年)、宝永噴火(1707年)を合わせて富士山の三大噴火と呼びます。延暦噴火は比較的規模が小さかったとみられますが、貞観噴火では噴出物が約14億立方メートルと札幌ドーム900杯分に達しました。宝永噴火は最も恐ろしいプリニー式という爆発的な大噴火で、誰も予想していなかった南東斜面で起き、噴出物は貞観噴火の半分でしたが、大きな被害を出しました。江戸にも火山灰が降ったと記録されています。万葉集には火を噴く富士山を詠んだ歌がありますし、平安時代には10回の噴火がありました。宝永噴火の後、300年も噴火していませんが、これは、富士山の歴史では異例のことなのです」

 ――どんな噴火がいつ頃起きると考えられますか。

 「それが予測できないのです。もともと富士山は『噴火のデパート』と呼ばれるほど、さまざまなタイプの噴火を繰り返してきました。宝永噴火は爆発的な噴火でしたが、ほかに溶岩流が出るものや、噴石や火山灰だけが出るものもあり、噴火の場所も山頂や山腹などさまざまでした。いつ噴火するか、予想するのは現状では困難です。しかし、東日本大震災の後、日本の火山は明らかに活動が高まっています。これまでの100年ほどが異例に静かだったのであって、今は、通常に戻りつつあると考えられます。富士山と近く、地下でつながっている箱根は活発に活動しています。富士山が近々噴火しても不思議ではありません」

■内部は4階構造 崩れやすく

 ――富士山の内部はどうなっているのですか。

 「内部は4階建ての構造になっています(左図)。4階建てと分かったのは21世紀になってからで、数十万年前にマグマが上がってできた最初の富士山は『先小御岳(せんこみたけ)』と名付けられました。その上に10万年前にかぶさってできたのが小御岳。さらにその上に1万年前までにできたのが古富士山。そしてその後の噴火で今の富士山の形ができました。火山灰と溶岩の層がお菓子のバウムクーヘンのように重なり合ってできていて、美しい形をしていますが、とても崩れやすいのです」

■首都圏にも打撃 産業マヒも

 ――もし、富士山が噴火したら、どんな被害が考えられますか。

 「当然、登山客に危険が及びます。富士山は登山客が多く、夏は山頂まで行列ができるほどで、夜も登る人がいます。突然噴火したら、58人が亡くなって戦後の噴火では最大の惨事となった2014年の御嶽山をはるかに上回る死傷者が出るでしょう。また、周囲には多くのリゾート施設があり、農業や牧畜も盛んです。豊富な伏流水を使った工場もあります。これらも大きな損害を受けます」

 ――首都圏にも被害が及ぶでしょうか。

 「火山灰が8千メートル以上まで噴き上がると、成層圏の偏西風に乗って東に飛ばされます。離れているといっても、富士山から首都圏までは120キロ。わずか2時間ほどで火山灰がやってきます。火山灰は『灰』ではなく、先がとがった岩の粉ですから、大量の火山灰が降ると、健康な人でも胸や鼻、のどに不快感を覚えます。目を傷つけ、失明につながる恐れもあります」

 ――産業への影響も心配されますね。

 「火山灰がわずか1ミリ積もっただけで道路の白線が見えなくなり、自動車の運転に支障が出ます。空港も鉄道も使えなくなり、交通がまひします。湿った火山灰のために回路がショートしたり、重さで電線が切れたりして、電力が使えなくなることもあるでしょう。貯水池が汚染されて上水道が使えなくなる恐れもあります。火山灰の微細な粒子がディスクに入り込んでコンピューターが使えなくなると、産業全体がストップすることも覚悟しなければなりません。さらに二次災害の危険もあります。1926年(大正15年)の十勝岳噴火では泥流で多くの死傷者が出ました。富士山でも降り積もった火山灰で同じような災害が起きても不思議ではありません」

 ――備えることは可能でしょうか。

 「噴火したら何が起きるかを普段から考えておくことが重要です。富士山の観測体制は、噴火が起きた場合の被害に比べるとあまりに貧弱なので、強化しなくてはなりません。避難のためのハザードマップも作られていますが、噴火の場所が予想できないので、うまく使えるかどうか。避難路とされる場所で爆発が起きるかもしれません。気がかりなのは、300年ぶりの噴火が大噴火だったという例が世界で数多くあることです。例えば、カリブ海に浮かぶスーフリエール・ヒルズ火山は97年の大噴火で多数の死傷者を出し、首都機能を移転させるほどの被害を受けました。富士山が同様の大噴火をする可能性は否定できないのです」(編集委員 橘井潤)