福嶋聡著

評 土肥寿郎 編集者

多様な思想の「闘技場」

 昨秋、ジュンク堂書店渋谷店で催された民主主義を称揚するブックフェアが、ネット発の激しい抗議によって撤去を余儀なくされた。一書店が客からのクレームに配慮した“小さな”事件ではある。だが、そこに“いやな空気”をだれもが感じた。

 本書は、書店をめぐる問題を1990年代から論じてきた書店人福嶋聡の最近3年のコラムをまとめたもの。〈嫌韓嫌中〉本―いわゆるヘイト本の書店での扱い方や「出版の自由」などについて本と書店の役割が論じられる。そこから不穏な空気を生み出している土壌のようなものが浮かび上がってくる。

 例えば、反応の速さが重視され、コミュニケーションに「熟慮」も「沈思黙考」もないIT社会の到来。だが著者が考える真のコミュニケーションとは、すぐには応答できないような「強烈なメッセージ」を受けることから始まるものだ。反対意見こそ傾聴するという議論の前提が今通じなくなってきている。

 丁寧に議論することは「余りにまだるっこしい」ために強いリーダーが求められる―日本は今そんな“お任せ民主主義”に陥っていないか。

 書店の現場では、促成栽培のように作られただれもが同調しやすい本が積まれている。出版社も書店もそうした本を大量に供給する。それらは瞬く間に消費され、すぐに忘れ去られる(原発の賛否も過去の話に思われよう)。問題はまったく解決していないし、消えてもいないにもかかわらず…。

 民主主義社会に生きる私たちは問題の丸投げも面倒な議論から逃げることもできないということを指摘しつつ、書店の役割を著者は繰り返し述べている。「多様でしばしば相対立する思想・信条が籠(こ)められた書物の森である書店現場」は、(民主主義を機能せしめるための)〈闘技場(アリーナ)〉なのだと。

 そして本書そのものが、冒頭に挙げた〈民主主義フェア〉問題の風化を許さない書店人からの強烈な反撃となっている。

(人文書院 1728円)

<略歴>
ふくしま・あきら 1959年生まれ。ジュンク堂書店難波店店長。著書に「紙の本は、滅びない」など。