山岡淳一郎著

評 沖藤典子(ノンフィクション作家)

厳しい現実と未来の姿提示

 長生きは人類の夢であり、幸せの象徴だった。その長生きがなぜ喜べずに、報われないものになったのか、誰もが長生きを喜べる社会のありようを模索した。

 現代社会の背景には、広がる経済格差、医療や介護への不安や不信、家族の変化などがある。直近の未来にあるのは、団塊の世代が一斉に75歳以上になる「2025年問題」。政府は危機感のもと、地域包括ケアシステム、地域創生や高齢者の移住などの政策を出している。財源難を理由に介護保険のサービスを後退させ、利用者の負担増も行った。果たしてこれらは、国民に納得のいくものなのか。

 本書は5章だて。第1章の冒頭、述べられる無理心中事件や介護殺人などの人権侵害には胸が詰まる。在宅医療には献身する医師がいる一方、家族の負担も大きい。第2章では、多死社会の到来を目前にして終末期の看取(みと)りと場所の問題、第3章は「超高齢社会は認知症の人との共存が試される社会」として、認知症ケアの実践を、第4章では、話題の地域包括ケアシステムにメスをいれた。第5章では、医療費に切り込む。日本人の命は「金の切れ目」で終わるのか。高騰する薬剤価格、社会保障費の医療費割合、認知症の人への高度医療の拒否など、合意点はどこか、衝撃的な課題が展開する。

 この閉塞(へいそく)状況を切り開く光はあるのか。先駆的な活動をする医師、看護師、医療グループ、診療所、介護関係者、ボランティアなど、多くの活動を取材してその実践を分析し、詳細なデータをもとに、未来の姿を提示してくれた。そこに希望を見出(みいだ)すが、我々(われわれ)もまた自分の命の終わりについて向き合わなくてはならない。関係者の努力、支える政策、個人の意志、そこに長生きして良かったという姿が見えてくる。

 本書は厳しい現実を描きながら、どこか詩情のようなものを感じる。著者の、人間の生に対する熱、そこから発する光に、救いを感じるからだと思う。

(ちくま新書 886円)

<略歴>
やまおか・じゅんいちろう 1959年生まれ。ノンフィクション作家。著書に「原発と権力」「インフラの呪縛」など