畢飛宇著

評 谷村志穂(作家)

他者を感じ合う 闇の中の光

 中国は複数民族の集合体だ。漢族、満州族、文化も言語も実は異なる人々が、長い歴史の中で幾度もの抗争を経て、今の形の中に収められている。器が小さすぎるのか人が多すぎるのか、中国を旅すると、どこにも喧騒(けんそう)が広がり、ふとしたことで強い色彩が溢(あふ)れ出す。それは人間味を伝える。

 本書『ブラインド・マッサージ』は、南京のマッサージ店が舞台である。ほとんどの登場人物たちが盲目である。そうなった時期や理由、「障碍(しょうがい)」の引き受け方は様々であり、生まれ育った場所も、家族との関係も一様ではない。

 街灯を灯(とも)して客を集めるマッサージ店が、彼らの寄る辺なのには違いないが、経営者も働く人間もそれぞれが、固有の金銭への執着や婚姻への思いを胸に秘めている。誰もが、生き生きとしている。光のない世界を闇と呼んでいいはずだが、本当の闇とは心の闇なのだ。

 登場人物たちの心の動き、人を好きになるとき、目には見えていないはずの視線は相手の心を射る光になっていく。

 ここでは誰もが助け合って生きる必要があり、親しい者たちは首を肩に預けたり、また、ただ移動するためにも、連なって手をつなぐのだが、それは互いの尊厳を認め合った上でのことなのだという人間への認識を著者は肌触りや匂い、他者を感じ合う感覚を通し描いている。

 色彩のないはずの物語世界が、なんと鮮やかなのか。他者の息遣いや外界からの音に敏感な盲人たちは、静寂を好んでいるようだ。静寂と暗闇の世界。しかし、描き分けられた登場人物たちのそれぞれが互いに心の光を照射し合い、手で探り合い、全身で求め合っていく。登場人物たちが個々に放つ強靱(きょうじん)で繊細な心の光で織り上げられた物語。浮き上がってくる紋様はやはり、人間味に溢れた、中国の人らの喧騒でもある。

 著者のビー・フェイユイ氏の持つ、圧倒的な他者への深い認識とともに、鮮やかな暗闇を歩む至福を味わう傑作である。

(飯塚容訳/白水社 3672円)

<略歴>
ビー・フェイユイ 1964年生まれ。南京大教授。97年の「哺乳期的女人」と2004年の「玉米」で2度、魯迅文学賞