森山大道、鈴木一誌著

評 土肥寿郎(編集者)

写真の本質 対話重ね迫る

 かつて森山大道は〈写真行為の到達点は写真集だ〉と言った。本書でも「印刷され増殖しているという感覚がぼくの思う写真の自由さであり魅力」と述べている。デビューした1960年代から今日まで、自身の著作も含めて森山の写真をめぐる言説は膨大にある。写真集も手がけるブックデザイナーの鈴木一誌が、さまざまな本から核心的な文言を引用しつつ、〈対話〉によって森山大道が向きあう〈写真の普遍性〉を直接本人から聞こうとした。

 2009年の対話では刊行直後の写真集『北海道』が語られる。30年間未発表のモノクロ写真400枚を収めたこの本にはしかし、北海道らしい情景は何もない。写っているのは猫でありバーにいる女であり路上ですれ違う乗用車である。「盛り下げの極北に達した写真集だ」と言う鈴木に、森山は「この写真集を出してぼくが強く思ったことは、ぼくの写した写真がはっきりとアノニマスになった、と感じたこと」とその出来を語る。〈時間〉と〈作家性〉の〈消滅〉が森山写真の要諦だ。「素材主義的に勝手な概念や思い込みを付加していくのは、写真にとって本来の姿じゃないですよね。そこからは極力離れ逃げたい」。写真集をめぐる緊密な〈対話〉が田本研造の開拓期の写真に連なる〈アノニマス〉(作者不詳の記録性)を浮き上がらせ、目を見開かされる。

 一方で、敬愛する安井仲治の作品を饒舌(じょうぜつ)に語る森山がいる。「このイメージはぼく、はっきりパクりました」と檻(おり)の中の〈犬〉の写真を示して森山の代表作〈三沢の犬〉との類似を吐露する。

 数年おきに8回行われた〈対話〉には内容に濃淡があり重複もあるが、反復される本質的な問いに訥々(とつとつ)と答える森山の言質にはブレもボケもないことに驚く。言語化できない〈撮影の衝動〉とプリンティング・メディアとしての〈写真の本質〉に1ミリでも近づくための言葉を求めて、「尺取り虫のようにのたりのたりと」対話を重ねた写真家と装幀家による労作である。

(月曜社 2970円)

<略歴>
もりやま・だいどう 1938年生まれ。写真家
すずき・ひとし 1950年生まれ。ブックデザイナー