池内了著

評 東嶋和子(科学ジャーナリスト)

行動する科学者の随筆集

 本書のタイトルは、文筆家としても知られる物理学者の寺田寅彦が、学生たちにいつも話しかけていた言葉にちなむ。

 「私たちがつい当たり前だとして見過ごしてしまう事柄であっても、よくよく考えれば何故そうなのかがわからないことが多くあり、それに気づくようになることが科学者・技術者の第一歩であると言いたかったのだろう」

 「科学者・技術者の条件」と題する文で、著者はそう述べている。科学者にとっての最重要の資質は「問題を嗅ぎ付ける能力」と説くとおり、著者独特の「問題を嗅ぎ付ける能力」がいかんなく発揮されたのが、本書である。

 富士ゼロックスがスポンサーの雑誌、中日新聞、三洋化成の業界誌にそれぞれ連載した最近の科学時評を収録した。

 「率直かつ直観的に科学にまつわる感想を連ねて」、時に口やかましい「小言幸兵衛(こごとこうべえ)的存在」になり、時に「亀の甲より年の功」の知恵を出し、著者らしい随筆集になっている。

 面白く読んだのは、専門である物理学の話。「塔(タワー)を使った科学実験」という文では、重力に関わる三つの話題を取り上げた。中原中也の「タバコとマントの恋」という空間落下にまつわる詩も織り交ぜて、興味をそそる。

 「塔を利用した最も簡単な一般相対性理論の検証法」として、30メートルほどの塔の最上階と地下に原子時計を設置し、時間の進み方がどう異なるかを調べる方法が紹介されている。

 環境管理を完全にし、雑音や他の重力の影響を避けて二つの時計を合わせると、1秒につき1億分の5秒程度、地下の原子時計が遅れるという。

 教科書の中でひからびていた理論がにわかに身近な現象として感じられ、わくわくした。

 「市民科学に求められること」という文では、博物館を「地域の広い意味での科学(文化)を創造する場」にしようと提案しており、行動する科学者ならではの説得力がある。

(而立書房 2052円)

<略歴>
いけうち・さとる 1944年生まれ。宇宙物理学者。総合研究大学院大名誉教授。著書に「科学者と戦争」など