今福龍太著

評 吉成秀夫(古書店「書肆《しょし》吉成」店主)

混血から世界読み解く想像力

 一般的にクレオールとは混血文化を意味し、異言語が混交して生まれた言語をクレオール語という。本書は南米を含むアメリカ大陸の多文化社会に生きる人々の思想、文化の内実に迫ることで、現代社会を「クレオール」、混血の世界として見直す、新しい世界の見方を提示した。

 アメリカでは、先住民族の土地を「発見」したヨーロッパ諸国がこれを征服し植民地化した歴史があり、現代では戦争による亡命や難民や強制労働、出稼ぎや移住、都市における人びとの移動や観光など経済的・社会的な理由で多様な人びとが共生する移民国家だ。しかし今なお白人優位で父権的な性格をもち人種差別や抑圧がある。

 著者は、メキシコ系やベトナム系アメリカ人女性、パレスチナからの亡命思想家、国境地帯を行き来するメキシコ人、ブラジルやカリブの島々の詩人たち、ブルース音楽を生み出した黒人労働者など多様なルーツを持つ人々のユニークな表現活動を次々と紹介する。彼らは価値観の差異のはざまで自分の位置を確認しながら文学、映像、音楽などを作り上げてきた。

 また、本書の魅力は、その独特の著述方法、論理の展開にある。詩的想像力によって次々と思考を飛躍させて、皮相なリアリズムではとらえられない世界の姿をみせてくれる。

 例えばふつう英語で赤、スペイン語で網を意味する多義的な「Red」という言葉に注目し、あるメキシコ人民俗学者の生涯、失われたバリオと呼ばれる貧しい居住区の記憶、チカーノ(メキシコ系アメリカ人)詩人とアステカ神話といった直接的にはつながらない事柄が、しかしたしかにひとつながりのメキシコ的なる風景として描き出されていくのだ。

 本書は四半世紀前の初版以来版を重ね、このたび新たに2編を増補した著作集の1巻として編まれた。世界の国々が排他的な分断と保護主義の傾向を強めるいまこそ、混血という方法で世界をつなぐ、しなやかな想像力を読み取るべきだろう。

(水声社 4320円)

<略歴>
いまふく・りゅうた 1955年生まれ。文化人類学者、批評家。東京外語大大学院教授