<単行本>

◆江戸へおかえりなさいませ 杉浦日向子著

 46歳で亡くなった漫画家、江戸風俗研究家が、200年以上も平和だった江戸の町の魅力を紹介したエッセー集。日の出とともに起き、日が暮れると寝る省エネ生活や、6畳と土間にたんすひとつという町人長屋での暮らし、日銭で一家を養うこともできた江戸のつつましい生き方こそ日本人の精神と説き、現代社会を批判する。(河出書房新社 1728円)

◆1941 決意なき開戦 堀田江理著

 なぜ日本はアメリカとの戦争を始めたのか。1941年4月から12月までの日本政府の政策決定プロセスを追いながら、無謀な開戦の疑問に迫る歴史ドキュメントの労作。著者はイギリスやイスラエルの大学で教える国際関係史の研究者で、アメリカの一般読者のために英語で書いたものを自ら翻訳。勇ましい言葉に踊る指導者たちの無責任ぶりが痛ましい。(人文書院 3780円)

◆死の虫 小林照幸著

 戦前の新潟、秋田、山形の3県では夏になると原因不明のつつが虫病で多くの人が命を落とした。その病原体や感染経路を追い求め、命を掛けて研究を続けた日本人医学者たちの姿を描くノンフィクション。綿密な取材で研究者たちがしのぎを削る様子や、研究室内で感染し命を落とす人もいた過酷な状況を伝える。病の根絶に挑む彼らの情熱が胸を打つ。(中央公論新社 1728円)

◆里のいごこち 松橋利光著

 生き物カメラマンが自らの地元・相模原市周辺の田んぼ、山、川、人里で生き物の姿を活写した写真集。昆虫、カエル、ヘビ、鳥、猿など、人間の身近にこれほど多様な生物が生息していることに驚かされる。読者に生き物と自然に興味を持ってもらいたいと語る著者自身が小さな命に魅了されていることが伝わってくる。(新日本出版社 3780円)

◆沸点 チェ・ギュソク著

 1987年まで軍部の独裁が続いた韓国で、民主化のきっかけとなった大規模デモ「6月民主抗争」が起こるまでを、韓国の人気漫画家が描いたノンフィクション。学生運動家とその家族など、弾圧を受けながらも民主化のため奮闘した人々の姿。運動家の拷問死を通じ、社会の空気がどう変化したかを克明に丁寧な絵柄で伝える。加藤直樹訳。(ころから 1836円)

<文庫・新書>

◆プラネタリウム男 大平貴之著

 世界を代表するプラネタリウム・クリエーターの自伝。プラネタリウムが好きでたまらず、大学生でアマチュアとしては前例のないレンズ式を自作。以後、世界最多の星を投影させるなど独創的な発想と技術で世界を驚かせた歩みをつづる。(講談社現代新書 864円)

◆黄金の烏(からす) 阿部智里著

 松本清張賞を受賞してデビューした著者による、八咫烏(やたがらす)の世界「山内」を舞台にしたファンタジーシリーズ第3弾。禁制の薬「仙人蓋(がい)」の出所を調べる八咫烏の次代の長・若宮と若い雪哉との冒険を壮大な世界観で描く。(文春文庫 724円)

◆ジブリの仲間たち 鈴木敏夫著

 名物プロデューサーとしてアニメ「千と千尋の神隠し」などを手がけた著者が、自らの仕事を振り返る。宮崎駿監督との作品づくりや、宣伝費と配給収入が同じになるという法則などが興味深い。特に「もののけ姫」をヒットに導いた常識にとらわれない宣伝が見事だ。(新潮新書 907円)

◆ターンオーバー 堂場瞬一著

 警察小説の名手ながら、スポーツ小説も得意とする著者による短編集。やり投げのトップ選手が若手と張り合う「失投」、2人のエースのどちらを先発投手にするか悩む監督を描く「右と左」など、さまざまな競技における入れ替わり(ターンオーバー)の瞬間を捉えた。(ハルキ文庫 670円)

◆探偵・竹花 潜入調査 藤田宜永著

 探偵・竹花シリーズ4編を収録。表題作は21年前、プロの手口で金庫を破られ、父を殺されたという娘から捜査を依頼される。ニューハーフと失踪した会社役員が登場する「ピンクの霊安室」など、還暦を過ぎた探偵が血の通った捜査で事件を解決する。(光文社文庫 864円)