福間詳中川明紀撮影

福間詳
中川明紀撮影

中公新書 864円

中公新書 864円

元自衛隊医官が示す処方箋

 自衛隊の精神科医官を退職し、横浜市内でメンタルクリニックを開業して10年あまり。心の問題からうつ状態になり、訪れる患者たちのうち、うつ病が原因と思われるのは、実はほんの1割にすぎない。9割はストレス障害によるという。「今後の精神科医療はストレス障害が中心になる。多くの人に実態を知ってほしい」と執筆の狙いを語る。

 ストレス障害。聞いたことがあるようで、よく分からない。聞くと、夫の浮気が発覚した妻の例を挙げた。「それで奥さんの感情が不安定になってもうつ病とは言えないでしょう?」。脳の病気であるうつ病と、苦痛や恐怖に対する反応であるストレス障害は明確に違うと主張する。

 うつ病は休養が必要だが、ストレス障害であれば対処が違ってくる。「強いストレスを受けている人に『ゆっくり休め』と言っても無理。リラックスできるはずがない」。ならばどうすればいいのか。「むしろ適度に刺激を与えるべきだ」と言う。旅行でも、趣味でも、スポーツでも。刺激の分母が増えればそれだけ、ストレスの原因になっている刺激が占める割合は減る。「ストレスを『減らす』のではなく、『薄める』ことが大切だ」と強調する。

 本書では「上司のパワハラを受けた男性銀行員(40歳)」「育児ストレスの専業主婦(32歳)」など、具体的なケースを挙げてストレス障害の症状や原因を解説した。ストレスへの備えについては、体重60キロの場合、缶ビール2、3缶であればストレス解消の効用がある―など、示す“処方箋”は具体的だ。

 島根県に生まれ、防衛医大に進学。外科医志望だったが、臨床教育で「一番わけが分からない。でも面白そう」と精神科を選んだ。2003年から1年半、イラク・サマワに派遣された自衛官のメンタルヘルス支援に従事。計6回、10日間ずつ現地を訪問し、隊員への聞き取りや診療を行った。部下の悩みの聞き役に徹して自らのストレスを発散できず体重が激減した隊員、仕事上の失敗で自信を喪失し、早く帰らせてほしいと泣きじゃくる隊員。「人間関係のこじれや任務に充実感が得られないなど、一般社会でのストレスとなんら変わりがなかった」と振り返る。

 戦史の研究を通じ、兵士のストレス対策は「即時」「近接」「期待」が三大原則だと言う。ストレス障害で心身に変調を来したサラリーマンも同じだ。戦線復帰ならぬ復職の要諦は「なるべく早く、会社と連携をとりながら、社員としてのプライドを失わない努力をすること」。

東京報道 原田隆幸