2016年3月の北海道新幹線開業を見据え、北海道側の始発・終着駅となる新函館北斗駅(北斗市)で降りた観光客らを道内各地に呼び込もうとする動きが本格化してきた。胆振・日高管内では渡島管内森町と室蘭市を遊覧船で結ぶ「噴火湾横断航路」の実証実験が始まるなど、ユニークな試みも出てきた。新幹線開業の恩恵を全道に波及させようと、各地で始まった取り組みを探った。

■噴火湾渡り室蘭「魅力的」

 「あっ、いたぞ」。夏特有の強い日差しの下、海面からカマイルカが次々と姿を見せると、波間を航行していた小型船「ベルーガ」(17トン、32人乗り)から歓声が上がった。

 乗り込んでいたのは大手旅行会社の商品開発担当者らだ。この日、船は渡島管内森町の港を出た後、駒ケ岳を背に、対岸の室蘭港まで噴火湾を横切るルートをたどった。

 旅行業者ら9人を招いたこの試験的なツアーは、胆振、日高両管内の全18市町と経済団体などでつくる「北海道新幹線×日胆地域戦略会議」(事務局・苫小牧市)が企画、今月5日に実施した。来春の北海道新幹線開業を前に、新函館北斗駅で降りた観光客らをクルーズ船を使って、森から室蘭まで運び、最終的に胆振、日高地域まで足を延ばしてもらうのが狙いだ。

 今回は事業化に向けた実証実験という位置付けで、クルーズ体験を軸に、登別温泉や日高管内を3泊4日で回った。参加したJTBグローバルマーケティング&トラベル北海道営業所長の徳弘雅哉さん(40)は「交通手段としても、観光資源としても魅力的」と、今回のルートが将来有望な旅行商品になり得るとの認識を示した。

 札幌観光バス・ツーリズム企画営業部の本田純一さん(36)も「道内のツアーで海を移動するのは非常に珍しく、函館から登別温泉などを回る3日間くらいのプランに組み込めば面白い」と期待感を示すなど、ツアー参加者の評価はおおむね良好だ。

 戦略会議事務局によると、森から室蘭までは直線距離で約40キロある。新函館北斗駅から室蘭までバスを使えば約3時間かかるが、森でクルーズ船に乗り換えれば、移動時間が40分ほど短縮できるという。さらに船上からは、駒ケ岳や室蘭の白鳥大橋などの景観を楽しめ、運が良ければ、イルカやクジラが泳ぐ姿も見られる。関係者は単なる移動手段ではなく、新たな観光の目玉としたい考えだ。

 ただ、実際に運航を担う民間事業者が現れ、ビジネスとして成り立つかは未知数だ。新函館北斗駅から森までを結ぶ交通機関が少ない問題もある。現時点ではクルーズ船も、定期航路より、20~30人程度の団体旅行でチャーター運航する形が現実的とされ、乗り越えなければならない課題は少なくない。

■二次交通やイベント 各地着々

 道内では噴火湾横断航路以外にも、北海道新幹線の利用客を呼び込もうとする準備が各地で進んでいる。

 胆振管内安平町では、町民有志による安平町サイクリングクラブが今年6月、馬産地である同町や周辺の約60キロを自転車で駆け抜ける「安平町牧場めぐりサイクリング大会」を初めて開いた。大会を目玉に新幹線客に胆振管内にも足を延ばしてもらうのが狙いで、来年以降も続ける考え。事務局の納口専納助(のうぐちせんのすけ)さん(66)は「管内の他の取り組みとも連携し、来年はさらにPRしたい」と力を込める。

 胆振では新幹線から乗り継ぐ二次交通の整備も進む。北都交通(札幌)は、新幹線開業後の来年4月下旬から9月下旬までの毎週3日間ずつ、函館市内から新函館北斗駅を経由し、洞爺湖や登別温泉を結ぶガイド付きツアーバスを運行する。旅行会社の反応も上々で、渡辺克仁社長は「増便を望む声もあり、需要次第では検討したい」と強気だ。

 後志管内寿都町は新しい施設で新幹線客を呼び込む戦略だ。同町と町漁協は6月、漁業の活性化と新幹線客誘致を目的に「すっつ浜直市場」を寿都漁港内に新設した。地元の海産物や定食を販売し、ホッケの開きなどの加工体験施設も来年4月に開く。同町は「目的地として選ばれるようにしたい」と意気込む。

 道南の西側では各地への周遊を促す取り組みが進む。渡島管内西部と檜山管内南部の9町などでつくる新幹線木古内駅活用推進協議会は、道南の路線バスや定期観光バスを3日間自由に乗り降りできる周遊切符「江差・松前千年北海道手形」の販売に力を入れる。昨年は試験販売だったが、今年は販売期間を延ばした上で値下げにも踏みきり、事務局の木古内町は「今年は利用を倍増させ、来春開業への弾みとしたい」と話す。

 一方、道は函館から空路を使って、道北や道東まで足を延ばしてもらう直行便の誘致に動いている。そのためのモニターツアーとして、まず9月下旬に函館空港と中標津空港を結ぶチャーター便を飛ばし、10月下旬には稚内空港とを結ぶ便も運航する。新幹線開業までおよそ7カ月となる中、受け入れ態勢の遅れを指摘する声もあり、対応が急務となっている。

■「北陸」長野―金沢開業 能登、福井にも効果

 今年3月14日に北海道新幹線より1年早く延伸開業した北陸新幹線長野―金沢間。開業前は「知名度の高い金沢が一人勝ちするのでは」ともささやかれたが、開業効果は北陸のほかの観光地にも及んでいる。

 石川県によると、新幹線が開業した3月から6月までの兼六園(金沢)の入園者数は前年同期比31%増で、金沢城公園(同)は同79%増だった。特に大型連休のあった5月は兼六園が同71%増、金沢城公園が同2・3倍と大きく伸び、新幹線効果をみせつけた。

 同県の能登地方も健闘している。金沢駅から特急バスで約2時間の輪島朝市は、現在放送中のNHK連続テレビ小説の舞台となっていることも後押しとなり、3~6月の客数が同36%増えた。能登にも開業効果を波及させるために、県が新幹線開業の2年前から、金沢と能登を結ぶ自動車専用道路を無料にしたことも弾みとなった。

 効果は新幹線が延伸していない福井県にまで及んでいる。景勝地として知られる東尋坊(坂井市)の3~6月の来場者数は同24%も増えた。坂井市の担当者は「金沢で1日過ごした後、富山、福井、能登のいずれかで1日過ごす人も多いようだ」と話し、降車地以外にも足を延ばす新幹線利用客が少なくないことを指摘する。

 金沢駅から特急やバスで1時間程度の加賀温泉郷でも、3~5月の宿泊者数が同11%増えた。金沢ほどの伸びではないが、地元の加賀市は「開業前は6、7%だった首都圏の宿泊者の割合が、開業後は30%くらいに増えた」と語る。

 まもなく北陸に続いて北海道新幹線も開業するが、北海道は北陸3県の約7倍も広く、同様の効果が各地に及ぶかはまだ不透明だ。距離と移動時間のハンディを補い、それをプラスに転じる柔軟な発想と戦略が求められそうだ。(経済部 堂本晴美、高橋俊樹)