YKKの本社機能の一部移転計画が進む「技術の総本山」黒部事業所=5月、富山県黒部市

YKKが黒部市で整備中の集合住宅「パッシブタウン黒部モデル」の完成イメージ。本社機能移転に合わせ「住みたい街」への投資も(YKK提供)

 新幹線開業に伴う都市間の時間短縮効果は企業活動にも大きな影響を与える。その顕著な例が、3月の北陸新幹線開業に合わせた「企業移転」の動きだ。折しも、本社機能を東京から地方に移した企業を税制で優遇する改正地域再生法が19日に成立したばかり。首都直下型地震への対策も叫ばれる中、新幹線は「東京一極集中」を是正し、企業移転を促す切り札になるのか。先進地・北陸と北海道新幹線開業を控えた函館の実情を取材した。(函館報道部編集委員 村田泉)

 ホームから北アルプスの山々と富山湾を見渡せる北陸新幹線黒部宇奈月温泉駅(富山県黒部市)。同駅から西に約4キロ離れた約170ヘクタールの敷地にファスナーやアルミ建材の工場が立ち並ぶ。ファスナー最大手、アルミサッシ2位のYKKグループ(東京)の開発・製造拠点で、約6200人が勤務する黒部事業所だ。

 YKKは1934年(昭和9年)に東京で創業したが、戦災で工場を失い、いったん解散。45年に富山県魚津市の工場を買収して再出発した。黒部には55年に工場が設けられ、ファスナーの世界シェア45%というトップメーカーに発展していく技術の礎を築いてきた。

 同社が進めているのがその「第2の創業地」への本社機能移転。東京から管理部門など一部機能を黒部事業所に移すもので、東京に勤務する社員約1300人のうち230人を来年3月までに順次異動させる。

 これを後押ししたのが、東京―黒部宇奈月温泉間を最短2時間14分で結ぶ北陸新幹線の開業だ。YKKの吉田忠裕会長CEO(最高経営責任者)は「必要に応じて東京と黒部を行き来して仕事することが可能になった。震災などに備え、東京に本社機能が集中するリスクを減らす狙いもある」と説明する。

 こうした動きはYKKにとどまらない。ハンドクリームなど製造のユースキン製薬(川崎)は富山市に新工場を建設し、横浜の工場機能を来春に全面移転する。「富山は地震が少ないほか、取引先メーカーも多く業務効率化も図れると判断した」(同社)。医療機器製造の日機装(東京)も静岡県の製造拠点を今年4月に金沢に移転した。

 北陸財務局の竹田伸一局長は、活発な企業移転について「新幹線によるアクセス向上が、災害リスクの低さ、伝統的なものづくり技術集積など、北陸経済の潜在的な強みを顕在化させた」と指摘する。

 YKKグループは本社機能移転に合わせ、建材製造を担当するYKKAPの「R&D(研究開発)センター」を黒部市内に建設中で、県内に分散していた建材の研究、開発、試験機能を集約。また黒部市内に集合住宅も整備中で、企業移転は、まちづくりへの投資にも結びついている。