着々と完成形に近づく新函館北斗駅の駅舎とは対照的に、駅前の一等地に今も「事業用貸地」の看板が立つ=15日午後3時20分、北斗市市渡(岩崎勝撮影)

 来年3月の北海道新幹線開業までいよいよあと1年。国内最速の陸上交通を初めて迎える道内の自治体や企業の準備はどこまで進んでいるのか。現状と課題を報告する。

企業誘致、甘い目算 広域連携、打開の鍵

 東京行き「かがやき」の発車時刻が近づくと、大きなキャリーケースや土産袋を手にした観光客ら約300人が改札口の前で列をなした。コンコースに2カ所ある臨時の入場券売り場には、新幹線を一目見ようと訪れた市民が殺到する。

 15日午後4時すぎ。北陸新幹線開業2日目の金沢駅は人の波に覆われていた。

 同じころ、北斗市の北海道新幹線新函館北斗駅の建設地では、完成間近の駅舎と、市が103億円を投じて区画整理を終えた13・5ヘクタールの「新しいまち」が目覚めを待っていた。

 だが、1年後に同じ晴れの日を迎えるこの「まち」に進出を決めた企業は、いまだレンタカー7社とタクシー1社しかない。

■市街地に遠く

 「企業誘致については私も甘い考えを持っていた」。高谷寿峰市長(63)が反省を口にする。進出企業に最大3億円を補助する制度を設けても“一等地”が埋まらぬ現実に「先が見えない不安があるからではないか」と肩を落とした。

 「市街地から遠い新幹線の駅の役割は空港と同じ。駅前にはレンタカー会社、駐車場、コンビニ1軒があればいい」。地域振興に詳しい日本総合研究所の藻谷浩介主席研究員(50)が喝破する。

 新函館北斗駅が設けられるのは現在のJR函館線渡島大野駅。函館駅から16キロ北西、北斗市役所から9キロ北に離れた郊外にある。

 実は、旧渡島管内上磯町と合併して北斗市になる前の大野町がまだ村だった1902年(明治35年)の開設時から、渡島大野は「村外れ」の駅だった。同町の町史編さん委員長だった田島慶造さん(81)によると「早くから水田開拓が進んだ大野は『鉄道が通ると田んぼがつぶされる』と反対運動が強かった」ため、中心部から約3キロ離れた現在地に置かれたという。

 ここが新幹線の終着駅になるのは、札幌を最終目的地とする新幹線のルート設定を妨げず、かつ函館に在来線でアクセスできるという理由しかない。

 「函館に行きたい人がこの駅前に泊まるか。そこに行く必然性がなければ企業は進出しない」。藻谷氏は、行政の画一的なまちづくりの発想には批判的だ。

 それでも活性化のヒントは皆無ではない。北斗市の「外れ」にある新函館北斗駅だが、駅舎の背中越しに引かれた境界線をまたぐと、意外なほど近くに「企業集積地」がある。

■七飯には集積

 駅から約2・5キロ北の同管内七飯町の峠下地区。函館と札幌方面を結ぶ幹線道路沿いの好立地で、町が2006年に造成した峠下流通関連団地は4・1ヘクタールの全区画を完売した。中宮安一町長(60)は「新函館北斗駅からのレンタカー利用者が立ち寄りやすい」とみて道の駅整備にも着手する。

 七飯町には新幹線の車両基地も設けられ、北斗市とは自治体合併が検討されたこともあった。目標はともに「新幹線を生かしたまちづくり」。まちの境界線を越えた広域連携こそ、終着駅を生かす鍵になる。

 北大公共政策大学院の小磯修二特任教授(地域開発政策)は、新函館北斗駅周辺の開発停滞の理由を「函館や道庁のある札幌から遠いため『開業効果を地域全体で享受しよう』という広域連携の旗振り役が出にくいことも一因」とみる。

 開業1年前イベントを北斗市(24日)、函館市(28、29日)が別々に開催するなど同駅周辺の2市1町に結束を目指す空気は今も薄い。まして「自治体の境界を越えて移動する観光客ならともかく、進出先が境界の内か外かで税収に影響が及ぶ企業誘致で隣町と連携するのは難しい」(北斗市幹部)。このしがらみを乗り越えない限り、1年後、野中にぽつんと立ち尽くす終着駅で一番列車を迎えることは避けられない。(報道センター 安藤健)