市立三笠高校は道立高から2012年に市立となった、道内唯一の食物調理科単科高だ。生徒たちは各種コンクールで相次ぎ入賞。料理教室や週末限定の飲食店運営など地域活動も重ね、マチに明るさをもたらしている。「料理を教えて下さい」とお願いし、ズウさんと訪ねた。

 校舎に入るとだしとお菓子の香り。「調理部と製菓部が練習しています」と斎田雄司教諭(27)が教えてくれた。調理実習室にはコック服の生徒が数十人。そのうち調理部部長で調理師コース3年の多田明日香さんが先生役をしてくれた。助手は1年の的場杏里さん、溝翔太さんだ。

 お題は、三笠高生が市民向け教室などでも教える「だし巻き卵」だ。4食分の材料は卵12個、だし汁320ミリリットル分、みりん6ミリリットル、うすくちしょうゆ50ミリリットル、塩2グラム、砂糖20グラム。

 まずだし取り。水1リットルに昆布10グラムを入れ、煮立たせず温め7~8分。昆布を取り出しかつお節約30グラムを入れ、浮いてきたらふきんでこす。斎田教諭は「昆布とかつおで1+1が3にも4にもなります」。合わせだし汁に砂糖や塩などを加え、溶いた卵と合わせる。卵8、だし汁3ほどの割合だ。

 手本は多田さんから。銅製の四角い巻き鍋が温まると「うまくいくかな」と、おたまで卵汁を鍋へ。鍋をひょいと振ると焼け始めた卵の先端1センチほどがひらりと浮いて返った。「わっ、魔法?」。鍋を返すたび山吹色のロールが太くなっていく。1回目を巻ききると鍋の奥に寄せ、油を引いて2回目の卵汁を入れる。3回目、4回目と、だし巻き卵が見る見る完成した。

 「熱々をどうぞ」と促され、かつお節と大根おろし、ネギでいただく。ほっこりあつあつ。だしのうま味でほほが緩む。斎田教諭は「強火だと柔らかく仕上がります」と言うが、その分、早く焼けるので難しそうだ。

 さあ、ズウさんの出番だ。1巻き目、鍋を振ると卵が斜めに折れた。ズウさん、「こりゃ難しい」と箸で修正。卵の切れ端もポロポロ出て、ズウさん、つまみ食い。仕上げでは、鍋を返すと卵がぼたっとコンロに落ちてしまった。「悔しいっ。もう一回」。やり直しでも箸を使って何とか形にした。

 記者も鍋を振ったが、卵は起きず、箸でつまんで畳む。その後も卵がその場で跳ね、手前に転がらない。「ズウさん、不器用?」と感じたのは間違いだった。2回目以降の焼きも焦りで乱れ、表現しがたい出来だ。斎田教諭が「これの出番です」と、巻きすで整形してくれた。

 2人の品を食べると、ずっしり締まった感じ。味も多田さんとの差は歴然だ。「腕だけでこうも違うか」とこぼすと、「僕らのはただの卵焼きだ」とズウさん。単身赴任歴6年、料理の腕は未熟だったと知った。

 次は西洋料理の先生を目指す的場さん。多田さんほどではないが手際よい。中華料理のシェフを志す溝さんは強火で挑み、形は少し乱れた。それでも2人の品は私たちの数段上。「プロ魂が芽生えているんだね」と、ズウさんと顔を見合わせた。

 材料が安く短時間でできるだし巻き卵。「商品を店で出すには代金に見合う技が必要。その基本を伝えるにも最適です」と斎田教諭。練習を重ね2年半、多田さんは「『分かった』と感じる瞬間があった」と話す。子供たちが夢に向かって重ねた努力を舌で実感した。「若いってすごい。マチの宝だね」。再びズウさんと顔を見合わせた。(イラスト・渡辺俊博 文・川原田浩康)

<メモ>

 市立三笠高校 食物調理科は調理師、製菓の2コース(1学年各20人)。調理部による「まごころきっちん」は、市内幸町の「まんぷく食堂」で月1~2回、日曜に営業。イオンスーパーセンター三笠店では生徒らが毎週土曜、「いわみざわパン甲子園」優勝作などのパンを販売。料理教室は市教委や三笠市商工会が本年度、同校などで複数回開いた。16年度も開催が検討されている。問い合わせは同校(電)01267・4・2200へ。