ズウさんの企画が連載されているJR北海道の車内誌。ある広告が以前から気になっていた。革製のかばんや財布、ペンケース。漂う重厚感に、つい見入ってしまう。製造・販売は「いたがき」(赤平市)。今月中旬、雪に覆われた小高い丘に立つ本店をズウさんと訪れた。

 「いたがき」は、創業者で会長の板垣英三さん(80)が1982年に現在地に工房を開いたのが始まりだ。2008年に新しく建てられた本店で、販売部企画課の塩地恵実さん(27)が出迎えてくれた。

 「まずは、こちらから」と隣接する敷地内の別の建物へ。以前の本店だとか。中では大きな牛革を一つ一つの製品の「部品」ごとに、特注の抜き型で切り抜く作業中だった。使うのは北米と欧州の牛革。植物から抽出したタンニンでなめしたものを、ベルギーと栃木県の業者から仕入れる。

 「自然に優しい昔ながらのタンニンなめしにこだわるモノ作り」―と塩地さんらの説明を聞いていると、ズウさんが「革の色はキャメル、ダークブラウン、ブラックが基本なんだよね」と雑学を披露。「よくご存じで」と塩地さんが驚いた。

 ここで作った「部品」を貼り合わせ、縫い付け、製品にするのが新しい本店の中にある工房だ。扉を開けると「タタタタ」とミシンの走る音が耳を打つ。約30人の職人たちの静かな緊張感。大半が女性だ。5~6人の班ごとに受け持ちの製品が決められ、分業で作り上げる。

 突然、意外な事態が。作業中の女性が「(JRの)イラストの方ですよね」。「そうです。ズウです」。何人もが「サインください」。これは、過去の取材では無かった展開だぞ。作業用エプロンや色紙に、自らの似顔絵とともに次々とサイン。最後は記念撮影も。ちょっと、ズウさんがうらやましい…。

 ともかく、さまざまな形、色、厚さの革を貼り合わせ、縫い付け、仕上げていく。すべてが手作業だ。特に、修理班の4人の仕事が印象に残った。

 修理依頼は月に約100件。全国各地から届く。製品への愛着の深さが分かる。ただ、革は使うほどに形が崩れてしまう。「それに合わせて修理するのは難しい」と塩地さん。だから、この班はベテランぞろいだ。

 一人の女性スタッフが顧客からの礼状を見せてくれた。分厚いファイルにびっしり。メールや毛筆の手紙、絵はがきとさまざまで「見事によみがえった。ありがとうございました」との文字も見えた。「私たちもうれしくて。返事も書きますよ」

 この後、ズウさんと円形のコースター作りを体験した。ボソボソとした革の切断面に塗料を塗り、磨いてつやを出す「コバ仕上げ」を製造部の丸山実樹代さん(51)に教えていただいた。「うちの製品は(切断面が)すべて、きれいに処理されているのが特徴なんです」という。

 下地を塗り、布で磨き、最後に茶色の塗料だ。ズウさんは手慣れた様子でペタペタ。「大胆ですね」と丸山さんが感心する。こちらも負けじとペタペタ。仕上がりは上々だ。

 乾くまでの間、板垣会長と長女で社長の板垣江美さん(53)が楽しい話で歓待してくれた。スペースが足りず紹介できないのが残念だが、江美さんの言葉が記憶に残った。「作る人を育てないと売れるものは作れません」。取材で見た職員の笑顔や丁寧な話しぶり。「いたがき」が愛される理由が分かった気がした。(イラスト・渡辺俊博 文・中原洋之輔)

<メモ>

 「いたがき」赤平本店は赤平市幌岡町113《(電)0125・32・0525》。ショールームのほか、一昨年7月にはカフェをリニューアルオープンした。本店以外に、札幌や新千歳空港、東京、京都に直営店が計5店ある。商品の問い合わせなどは本店へ。