ちょっと古いかもしれないが、「TKG」という略語をご存じだろうか。そう、卵かけご飯です。記者はこれに目がなく、365日でもかまわない。市販よりずっとおいしい卵が買えると評判の平飼い養鶏農場が長沼にあると知り、2月初旬、ズウさんを誘った。

 道の駅近くの眺望の良い丘の上。経営する村田博美(ひろよし)さん(61)が笑顔で出迎えてくれた。庭先で立ち話していると3頭の大型犬がしっぽを振りながら登場。と、なんと、その後ろから、赤茶色の鶏が数羽ちょこちょこ歩いてくるではないか。「この辺はキツネやアライグマが出るけど、犬たちが守ってるから大丈夫なんです」と村田さん。脱走したかと思った…。

 案内してもらい、大型ビニールハウスの鶏舎へ。金網で仕切られた部屋の一つに入ると、70羽ほどが広々としたスペースを自由気ままに歩き回っている。見知らぬ人間を怖がる様子もなく、実ににぎやか。わらが敷かれた床は乾燥していて全然臭くない。「コケコッコー」と1羽だけいた白いおんどりがひときわ高い声を上げた。

 鶏というと白色レグホンが思い浮かぶが、ここで飼っているのはいわゆる赤鶏のボリスブラウンという系統。神経質でなく、群れで過ごす平飼いに向いているという。村田さんが胸ほどの高さに置かれた産卵箱ののれんを開けると、卵を抱いた数羽が「何か用?」といいたげに見上げている。中はもみ殻が分厚く敷きつめられ、居心地よさそうだ。卵を手渡してもらったズウさん、「おお、あったかいねえ。人肌だ」

 通路に出るとなぜかそこにも鶏たちが。いじめられるなど、集団とうまくやっていけない個体を放しているのだそう。氷をくわえた1羽が突然走りだし、その後を数羽が全速力で追いかけていく。「1羽が何か面白いもの見つけるといつもこう。毎日が大運動会ですよ」(村田さん)。ほぼ一生を狭いかごで過ごす一般的なケージ飼いと比べると何と幸せな鶏たちだろう。

 もう1棟の鶏舎をのぞくと鶏たちの真ん中になぜかヤギが座っている。別の棟にはウコッケイ、チャボ、名古屋コーチンなど珍しい鶏がたくさん。さらに別の棟ではあでやかでやたらに人なつこいクジャクが出迎えてくれた。現在飼っているボリスブラウンは1500羽ほどだが、ウコッケイやクジャクの飼育は「趣味」だそうで、その数100羽以上。驚きの連続だ。

 村田さんの好意で産みたての卵でのTKGをごちそうしてもらえることに。農場に隣接する「たまごcafe&cake緑の丘」(2月11日閉店)に場所を借りる形でお邪魔した。

 赤茶の卵は大ぶりで市販のものより殻が硬い。割ると、驚いたことに黄身はきれいなレモンイエロー。1個目は何もつけずに食べてみた。弾力があり、濃厚な風味が口の中に広がる。「色薄いのに味濃い。全然違う」とズウさんも驚きの声。次はだしじょうゆでかき混ぜ、炊きたてのご飯にかける。これはおいしい。はしがとまらなくなり、3杯もおかわりしてしまった。

 味と色の違いはエサにある。鶏たちの健康を考え、くず米を主に米ぬかや魚粉、きな粉、カキ貝の殻などを自分で調整して配合。春から秋にかけてはクローバーや季節の野菜なども与える。経費はかかるが「高くても安全なものを使いたい」と徹底して地場産原料にこだわる。

 農場を切り盛りするのは村田さんと、妻由香里さん、今春“卒業”予定の研修生大倉準さん(27)の3人。契約しているレストランや自然食品の店に出荷するほか、個人客には由香里さん手書きのイラスト入り農場だよりを添えて渡す。こだわりの卵は2008年の洞爺湖サミットに採用されたほどだ。

 物価の優等生ともいわれる卵だが、価格で選んではいけないな、と思った。鶏たちの幸せと生産者の思いがこもった安全安心の逸品。おすすめします。(イラスト・渡辺俊博 文・中橋潤一郎)

<メモ>

 長沼町東11線南5。無休。卵は併設の直売所で1個50円。地方発送も可。(電)0123・88・0787(ファクス兼用)