2004年に始まった「ぶらり旅」も、今回で最後となった。途中、体裁やタイトルを変えながら、通算241回目。空知管内限定の旅が、よく続いたものです。

 さて、最終回は、当初から企画に協力いただいているイラストレーターのズウさんの古里・夕張へ。3月上旬、マチの玄関口・JR夕張駅に隣接する喫茶店「和(なごみ)」を訪ねた。

 夕張駅とホテルマウントレースイに寄り添うように建つ「和」は、2014年12月開店。1年ほど空き店舗となっていた場所に、中本満さん(69)、和江さん(67)夫妻が出店した。

 ズウさんが店に入ると、お客さんたちから「今度は何の取材なの」「道新の『ぶらり旅』さ」「へえ~そうかい」と次々に声が上がった。さすが地元だ。温かい雰囲気の中で、満さんと和江さんが出迎えてくれた。

 中本さん夫妻は夕張出身。和江さんは、実家が市内で営む喫茶店や和菓子店で働いた経験を元に、04年から本町地区で喫茶店「和」を切り盛りしてきた。しかし、満さんが「夕張の玄関口が空き家では」と思い立ち、移転オープンに踏み切った。

 実は、ズウさんと満さんは幼なじみ。今は住む人もいない市内富岡地区に住んでいた。満さんの実家は「中本洋品店」で、ズウさんは鮮魚などを扱う「渡辺商店」。20~30メートルほどしか離れていなかったとか。しかもズウさんは和江さんと同い年。3人の昔話が止まらない。

 炭鉱全盛時代、同地区には炭住がびっしり並んでいた。「小学校の児童数が2千人を超え、午前と午後の二部授業の時もありましたね」と満さん。「午前中は遊んでばかりだった」とズウさん。満さんは「(昭和30年代前半に)抽選で白黒テレビが当たった時は、近所の人が家に番組を見に来て大変。窓辺にテレビを置いて、外に向けて見えるようにしましたよ」。これに和江さんも加わる。「××さんの店があったの知ってる?」

 財政破綻から10年。人が減り、家も減り、映画「幸福の黄色いハンカチ」に出てくる飲み屋街の路地も「家がかしいじゃって通れない」(満さん)。ズウさんに古里の原風景を尋ねた。すると、「朝起きて、深呼吸したら、石炭ストーブを燃やす匂いがして。それかなあ」。

 そんな話を周囲に座るお客さんたちが笑顔で聞いている。「地元の人や、以前店があった本町の常連さん、ホテルの観光客も来てくれる。移転して良かった」と夫妻は声をそろえる。

 店には和江さん手作りのパイや焼き菓子のほか、季節によっては桜もちなども。週末には札幌市南区の洋菓子店「Patisserie Bliss Bliss(パティスリー ブリス ブリス)」のケーキが並ぶ。長男の勉さん(39)が神戸での修行を経て、昨年11月に開いた店だ。軽食は満さんが腕を振るう。一番人気は素朴な味のオムライス。裏メニューもあるが、それはお店で…。

 満さんは、07年に倒産した夕張市の第三セクター・夕張観光開発の役員を務めるなど、古里の盛衰を見つめてきた。それだけに夕張への思いは強い。

 「われわれが店のあかりをつけたことで、マチを訪れる人を『いらっしゃいませ』と迎えることができるようになった。たくさんの人に、夕張の『人』の良さを感じてほしいですね」

 最後も、空知らしい「ぶらり旅」。良い感じで、長い旅を締めくくることができたようです。(イラスト・渡辺俊博 文・中原洋之輔)

<メモ>

 「和(なごみ)」は夕張市末広1の1の4《(電)0123・52・3337》。午前10時~午後7時。メニューはオムライス(スープ・サラダ付き)700円、コーヒー400円、ソフトクリーム(バニラ)280円など。不定休。

=おわり=