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グラフ2

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 北海道新聞が、がんで命を落とす道民を一人でも減らそうと進めている、がんを防ごうキャンペーン。がんの最も大きな要因「たばこ」をテーマにした第4部のスタートに合わせ、他人のたばこの煙を吸い込む受動喫煙を含め、たばこがどんながんに、どれほど関わっているのかをまとめました。

■がん・死亡の最大要因 受動喫煙にも注意

 たばこ対策は「がん予防の一丁目一番地」と呼ばれます。それを端的に示したのが左のグラフです。東大大学院の井上真奈美特任教授(49)らの研究によるもので、がんを防ごうの連載第1部などでも紹介しました。

 一番上には「喫煙」があります。たばこを全く吸わなかったとしたら、日本人の男性がかかった(罹患(りかん))がんの29・7%、死亡したがんの34・4%は防げたという意味です。数あるがんの要因の中で、たばこは男性のがん罹患、死亡との関わりが最も大きいのです。

 女性でも、感染症に次いで、たばこががんの罹患や死亡と強く関わっていることが読み取れます。男性よりも女性の方が関連が小さいのは、喫煙率が男性より低いためとみられます。ただ喫煙率が全国で最も高い北海道の女性は、がん罹患や死亡と喫煙との関わりがもっと大きいかもしれません。

 他人が吸ったたばこの煙を吸う「受動喫煙」も、がんの要因になります。受動喫煙の影響は、女性の方が大きく出ています。

 男女トータルでみると、がんの罹患の20・1%、死亡の24・1%はたばこ(喫煙+受動喫煙)が要因です。罹患は感染症(20・6%)とほぼ同じ水準。死亡は感染症(21・7%)を上回り、がんの要因の第1位です。だからこそ、専門家の間で「たばこは、単独で最大のがんの要因」と言われているのです。

■男性100人中12人が 禁煙なら回避

 「日本では毎年、100万人近くががんになります。このうち10万~15万人が、たばこが原因でがんになっていると推計されています」「日本人でたばこを吸う人が何らかのがんになるリスクは、吸わない人に比べ1・5~2倍ほど高くなります」。国立がん研究センター(東京)の津金昌一郎がん予防・検診研究センター長(60)はこう話します。

 日本人を対象にした、津金さんの試算結果を一つ紹介しましょう。

 40歳男性で喫煙者と非喫煙者それぞれ100人の集団をつくり、74歳までに何らかのがんや肺がんになる人数を、従来の研究データを基に推計して比べてみたそうです=図1=。

 その結果は―。たばこを吸わない人は20人ががんになり、うち1人が肺がんでした。これに対し、吸う人は32人ががんになり、うち5人が肺がんでした。

 「32引く20、つまり12人がたばこのために、がんになりました。40歳の喫煙者の集団100人全員が、すぐに禁煙すれば、将来12人ががんにならずに済む計算です。大きな数字だと思いませんか」(津金さん)

 ただこの試算でも、非喫煙者なのに、がんになる人はいます。喫煙者でもならない人はいます。このことを津金さんは、こう解説します。「要は、がんになる確率が違うのです。試算ではたばこを吸うと、何らかのがんになる確率が約1・6倍、肺がんになる確率が約5倍高まるのだと受け止めてほしいのです」

■煙の有害物質ニコチンなど200種以上

 たばこの煙は、喫煙時に口に入る「主流煙」と、火が付いたたばこの先から出る「副流煙」、吸った人がはき出す「呼出煙」があります。これらの中に、有害物質が多く含まれていることが分かっています。

 厚生労働省や国際的ながん研究機関によると、たばこの煙には少なくとも4千種類の化学物質が入っています。このうち人体に有害な物質は200種類を超します。その中に、ベンゾピレンやベンゼンなど60種類以上の発がん物質が含まれています。

 よく知られるニコチンも有害物質の一つ。タールには、多くの有害物質や発がん物質が含まれています。

 ニコチンには、ヒトの神経に働き、快感や覚醒作用があります。愛煙家がたばこをやめたり減らしたりすると、ニコチンが切れたり減ったりし、不快感などの離脱症状が表れます。ニコチン依存の状態で、たばこをなかなかやめられない理由はここにもあります。

■「頭すっきりストレス解消」科学的根拠なし

 愛煙家は「たばこはストレス解消になる。頭がすっきりする」とよく口にします。科学的に根拠があるのでしょうか。

 「単なる思い込みでしょう」。地域医療振興協会ヘルスプロモーション研究センター(東京)の中村正和センター長(60)=予防医学、公衆衛生学=は明確に否定します。「喫煙者のイライラは、たばこに含まれるニコチン依存の禁断症状。吸えばニコチンが体内に入り、症状が緩和される。それをストレス解消と呼んでいるだけです」

 日本たばこ産業(JT)も「喫煙でストレスが解消されるという、明らかな証拠はつかめていない」(たばこ事業本部渉外企画室、宮下剛さん)との立場です。

 では、低ニコチンや低タールの「軽いたばこ」にすれば、がんのリスクは下がるのでしょうか。JTは「喫煙はがんなどの要因の一つですが、健康にどの程度の影響を与えるか明確ではなく、軽いたばこがリスク低減につながるかは科学的に言える段階にない」(宮下さん)と説明します。

 一方、中村さんは「メリットは全くない。きついたばこから軽いたばこに替えても、血中のニコチン濃度は変わらなかったという報告があります。深く吸ったり、吸い込むペースを速くしたり、根元まで吸い切ったり、自分に合う量のニコチンが体内に入るよう、つじつま合わせをするからです」と警鐘を鳴らします。

■喫煙率 道内女性の高さ突出

 全国の喫煙率は、1966年の男性83・7%、女性18・0%をピークに、ほぼ一貫して下がってきました(日本たばこ産業調べ)。ただ、2013年の国民生活基礎調査では、10年の前回調査に比べてやや上昇しており、「下げ止まり」との見方も出ています。

 北海道は全国と比べ、喫煙率が高い状況が続いています=グラフ1=。男性は青森、佐賀両県に次ぐ3位。女性は2位の青森を大きく上回っています=グラフ2=。男女を合わせた喫煙率は全国で最も高いです。都道府県別の肺がん死亡率(75歳未満)でも、北海道は男性が青森に次いで2番目、女性は最も高くなっています=グラフ3=。北海道の喫煙率の高さについて、はっきりした理由は分かりません。

 保健所長などを務め、たばこ問題や禁煙対策に詳しい道立心身障害者総合相談所の広田洋子所長(64)=医師・公衆衛生学=は、社会に早く出て働く人が多かったことなど、さまざまな要素が関わっているのではないかと推測します。

 特に女性の喫煙率の高さには「因習にとらわれない道民の気質が関係しているのではないか」と分析します。さらに、女性はたばこを吸うべきではない、といった考え方があまりされなかったのではないかとみています。

 広田さんは「祖母や母親が喫煙する家庭環境の中で子どもが育つと、世代が変わっても喫煙習慣が受け継がれてしまいがち」とも指摘しています。

■発がん物質 唾液、血液に乗り全身に

 世界保健機関(WHO)の専門組織、国際がん研究機関(IARC)は「喫煙が、さまざまながんと因果関係がある」と判定しています。喫煙と因果関係が確実にあるがんとして、まず肺がんが挙げられます。吸った煙は肺に届くので、みなさんも分かりやすいかと思います。

 ただ、肺がんだけではありません。左の図を見てください。喫煙によって確実にリスクが上がるとされるがんは、食道がんや口腔(こうくう)がんをはじめ、膀胱(ぼうこう)がんや肝臓がん、膵臓(すいぞう)がんなど全身にわたっています。

 まず煙に含まれる発がん物質に肺や口、のどなどが直接さらされ、がん化の危険があります。さらに発がん物質は唾液に溶けて食道や胃に達し、発がんに関わります。肺の末端などから血液中へ移っていって肝臓や膀胱をはじめ、煙と直接触れない部位のがんリスクを上げるとされています。

 火をつけたたばこの先から出る「副流煙」にも発がん物質が含まれています。他人の副流煙や、吐いた「呼出煙」を吸わされてしまう受動喫煙も問題です。IARCは、受動喫煙も肺がんの危険性を高めることが「確実」だとしています。

 これに対し、日本たばこ産業(JT)のたばこ事業本部渉外企画室、宮下剛さん(48)は「喫煙はさまざまな病気の要因の一つで、がんを発症するリスクを高めることは承知しています」と話した上で、受動喫煙に対しては「喫煙者の煙に比べると、かなり希釈された(薄まった)煙」と指摘。疫学研究の分析から「受動喫煙が肺がんなどの要因であるとは、現段階で言えない」と説明しています。

■肺疾患や脳卒中 乳幼児突然死も

 がん以外にも、たばこはさまざまな病気の引き金になります。肺や気管支の炎症、呼吸困難が進む慢性閉塞(へいそく)性肺疾患(COPD)の原因となり、肺炎を起こしやすくなります。COPDは、がん治療の妨げになることもあります。

 国立がん研究センターによると、喫煙者は非喫煙者に比べ、男性で1・3倍、女性で2倍、脳卒中になりやすいとの調査結果があります。動脈硬化や心筋梗塞になりやすいとの調査結果も出ています。

 米国保健省の調査で、喫煙は白内障、歯周病などの原因としています。よく「子どものまわりでたばこを吸わないで」と言いますが、受動喫煙によって、乳幼児突然死症候群や子どもの中耳炎などが発症するリスクを高めるとされています。