地図1

グラフ1

グラフ2

グラフ3

北海道の「地域がん登録」-患者情報の流れ

肺がん

胃がん

大腸がん

膵臓がん

肝臓がん

乳がん

 「同じ道内でも地域によって、がんにかかったり、亡くなったりする割合に、これほどの差があるのか…」。北海道がんセンター院内・地域がん登録係長、斉藤真美さん(38)=診療情報管理士=は、パソコン画面に現れたまだら模様の地図を見て、驚きを隠せませんでした。2月初めころの話です。

 道がんセンターは2009年度から道の委託で、がんになったり、亡くなったりした道民の情報を集めた「地域がん登録」のデータを毎年まとめています。

 今回初めて道内に21ある2次医療圏ごとに、12年の登録データから死亡率(1年間に人口10万人中、がんで亡くなった人の数)や罹患(りかん)率(同じくがんになった人の数)を算出し、率が「高い」「比較的高い」「比較的低い」「低い」の4グループに分けて4枚の地図にしたのです。

 北海道のがんの現状を知り、その対策に役立ててもらうためです。地図は3月に道が公表した報告書「北海道のがん登録の状況(2012)」に掲載。赤が濃いほど、死亡率や罹患率が高いという意味です。

 斉藤さんの算出と分析によると、全道のがん死亡率は男性が187・3、女性が87・2。地域別では高い順に次のようになります。

 ▼男性 《1》南檜山(248・2)《2》宗谷(219・9)《3》釧路(218・4)《4》後志(216・7)《5》南渡島(211・8)

 ▼女性 《1》釧路(118・2)《2》北空知(115・6)《3》留萌(105・7)《4》東胆振(100・6)《5》南渡島(94・9)

 一方、最もがん死亡率が低い地域は、男女とも富良野(男性158・7、女性61・8)です。最も高い地域との差は男性89・5、女性で56・4ありました。

 斉藤さんは「男女とも死亡率が高い地域の多くは道北、道南、道東でした」と話します。参考として罹患率の地図を重ね合わせてみると、死亡率が高い地域はおおむね罹患率も高かったのです。「北海道のがん死亡率が高い最大の原因は、そもそもがんになる人が多いためではないか」とみています。

 今回の連載に合わせ、道がんセンターに、主な部位別の地図も作ってもらいました。どの死亡率も軒並み高い地域がある一方、特定のがんの死亡率だけが高い地域もあったのです。

 次回は登録データから見える現状と課題をより詳しく探ります。

 がんを防ぐには道民一人一人の理解と実践に加え、がんの現状を知り、その特徴と分析に基づいた取り組みが欠かせません。がん死亡率が青森県に次いで高く、専門家から「がん多発地帯」と呼ばれる北海道。第6部は、地域がん登録などのデータを、予防にどうつなげるのかを考えます。(生活部編集委員の岩本進が担当。4回連載します)

■がん罹患道内の現状は  12年の登録データから

北海道とひと口に言っても、がんが多い地域と少ない地域があることを明らかにした「地域がん登録」のデータ。この事業を道から受託する北海道がんセンター(札幌)が最新の2012年の登録を解析し、人口10万人中何人ががんで命を落としたか(死亡率)、同じく何人ががんになったか(罹患(りかん)率)の地域差を示した地図を作りました。このうち主な六つのがんの死亡率について紹介し、合わせて北海道のがんの現状をまとめました。(生活部編集委員 岩本進)

■4万4000人分を解析 死亡男女とも「肺」最多

 2012年の北海道の「地域がん登録」に登録された患者は約4万4千人に上ります。データからは地域差をはじめ、北海道のがんの状況がいろいろと読み取れます。

 まず、新たにがんになった道民のおおよその数が分かります。12年の1年間に、がんになったのは少なくとも4万317人(男性2万2858人、女性1万7459人)。そこからがんにかかった割合、おおよその罹患率が出せます。

 「おおよそ」「少なくとも」とことわりを入れたのは、地域がん登録は患者の情報の届け出を医療機関に義務付けておらず、任意の協力なので、がんの罹患者の数や実態を100%把握できていないからです。日本では、がんにかかった人の本当の数を誰もつかめていません。知るすべがないのです。がんの罹患者の数は推計しかありません。

 ただ、北海道のがん登録の届け出は年々増えています。12年は148の医療機関から届け出がありました。北海道がんセンターの高橋将人がん登録室長は「がんになった道民の6~8割程度はつかめているのではないか」とみています。

 このため現段階では、全道の罹患率の地図(地図1)は参考程度にみてください。「低い」とされる白い地域は、必ずしも「がんにかかる人が少ない」といえません。

 登録データによると、部位別の罹患者の数は、男性は肺がんが最も多く、次いで胃、大腸、前立腺の順。女性は乳がんが最多で、次いで大腸、肺、胃の順でした=グラフ《1》=。

 次に、がんで命を落とした道民の数をみてみましょう。12年の1年間にがんで死んだのは1万8138人(男性1万723人、女性7415人)。それを基に、道民ががんで亡くなった割合、死亡率も出せます。

 罹患と違い、死亡は医療機関からの届け出の他に、市町村に提出した死亡診断書の情報が各保健所から集まるので、がんによる死亡者数や実態を100%つかめます。

 部位別の死亡者数は、男性は肺がんが最も多く、次いで胃、大腸、膵臓(すいぞう)の順。女性も肺がんが最も多く、次いで大腸、膵臓、胃と続きます=グラフ《2》=。前立腺がんや乳がんより罹患者数が少ない膵臓がんが、男女ともに死亡者数は多いのが目を引きます。

 さらに地域がん登録からは、がんが発見された経緯、診断や治療時のがんの広がり(進展度)、受けた治療法などの状況もおおよそ把握できます。

 例として、がんの進展度を見ましょう=グラフ《3》=。進展度は《1》がんが臓器内にとどまる、早い段階の「限局(げんきょく)」《2》少し進み、リンパ節まで転移した「所属リンパ節転移」《3》隣の組織や臓器まで広がった「隣接臓器浸潤」《4》進行し、離れた組織や臓器まで転移した「遠隔転移」―の4段階です。

 主ながんで比べると、部位によって分布がかなり違います。自分で発見できる乳がんは早期の《1》が多く、難治性がんと呼ばれる肺がんや膵臓がんはより広がった《4》が多くなっています。

 がん登録のデータからは、このようながんの実態が見えてくるのです。

■地域登録とは

 「地域がん登録」は、都道府県など自治体が、住民のがんの実態を把握し、地域のがん対策を推進・評価するために、医療機関などの協力を得て、がん患者の罹患や生死に関する情報を集める仕組みです。

 国内では1950年代に始まりました。道も72年に開始し、2009年度からは北海道がんセンター(札幌)に業務を委託しています。道がんセンターが各医療機関からの届出票を受理。入力、集計、解析し、毎年報告書を出しています。

 登録情報を届け出るのは、患者ではありません。がんを診断・治療する医療機関です。届け出票の内容は、道の場合、患者の氏名や住所、がんの部位、診断日や発見経緯、がんの広がりの進展度や死亡日など25項目。届け出に協力するかは、医療機関の判断に任されています=図=。

 死亡者のデータは、各保健所からも集まり、届け出票と照合します。保健所経由の死亡情報で初めてがんが判明し、なおかつ届け出票が未提出の分には、医療機関に届け出を求めます(さかのぼり調査)。ただ北海道では「業務が増える」「予算がない」(道地域保健課)などの理由で12年まで、さかのぼり調査を行っていません。

 また、病気の情報は究極の個人情報です。集められた患者の情報は厳重に管理されています。

 地域がん登録は16年から、がん登録推進法に基づく「全国がん登録」へと移行しました。新制度は、日本中の全病院と一部の診療所(道内は575の病院、32の診療所の予定)に、一律の内容で、患者情報の届け出を義務付けたのが最大の特徴です。

 これによって初めて国内の正確ながん罹患者数や罹患率がつかめ、都道府県や地域間の比較も可能になります。新制度1年目の16年の罹患数などの公表は18年末の予定です。

■2次医療圏部位別死亡率 北海道がんセンター作成

地図と解説の読み方

 ▼地図と解説は全て、北海道がんセンターの院内・地域がん登録係長の斉藤真美さんが作成。

 ▼全道平均や各地域の( )内に記したがん死亡率は、2012年の1年間に人口10万人のうち何人が新たにがんで命を落としたかを示す数値です。

 ▼それぞれのがんの地図は、道内に21ある「2次医療圏」のがん死亡率を「高い」「比較的高い」「比較的低い」「低い」の4グループに分け、順に色の濃さを薄くしています。解説の丸数字は、がん死亡率の高い方から数えた順位です。

 ▼2次医療圏とは、一般的な手術や入院治療などの医療サービスを住民が不都合なく受けられる圏域です。一部の総合振興局・振興局では、次のように管内を分割・統合しています。

 ▽南渡島 函館市と周辺8市町▽南檜山 江差町と周辺4町▽北渡島檜山 八雲町と周辺3町▽札幌 札幌市を含む石狩管内▽南空知 岩見沢市と周辺8市町▽中空知 滝川市と周辺9市町▽北空知 深川市と周辺4町▽西胆振 室蘭市と周辺5市町▽東胆振 苫小牧市と周辺4町▽上川中部 旭川市と周辺9町▽上川北部 名寄、士別両市と周辺6町村▽富良野 富良野市と周辺4町村▽北網 北見、網走両市と周辺8町▽遠紋 遠軽町、紋別市と周辺6町村

■肺がん

 罹患(りかん)者数が男性で最も多く、女性では乳房、大腸に次いで3番目に多い。死亡者数は男女とも最多。全道の死亡率は男性が44.3、女性が12.7。死亡率が「高い」地域は、男性が《1》南檜山(63.9)《2》留萌(62.2)《3》遠紋(57.4)《4》宗谷(54.9)《5》後志(51.2)。女性は《1》北空知(23.8)《2》遠紋(18.2)《3》東胆振(17.0)《4》西胆振(14.7)《5》釧路(14.1)です。

■胃がん

 罹患者数、死亡者数ともに、男性では2番目に多く、女性は4番目に多い。全道の死亡率は男性が27.9、女性が9.0。死亡率が「高い」地域は、男性が《1》根室(41.3)《2》後志(39.3)《3》南渡島(35.6)《4》宗谷(31.3)《5》釧路(30.7)。女性は《1》釧路(13.5)《2》富良野(11.7)《3》後志、北網(11.5)《5》上川北部(10.0)。男性で最も高い根室は、女性は「低い」地域です。

■大腸がん

 罹患者数、死亡者数ともに男性で3番目に多く、女性では2番目に多い。全道の死亡率は男性が22・5、女性が11・9。死亡率が「高い」地域は、男性が《1》北渡島檜山(39・1)《2》中空知(31・1)《3》根室(30・7)《4》南渡島(29・0)《5》後志(28・8)。女性は《1》遠紋(18・0)《2》北空知(17・9)《3》釧路(15・9)《4》南空知(15・2)《5》留萌(14・2)です。

■膵臓がん

 罹患者数は男性が6番目、女性が5番目、死亡者数は男性で4番目、女性では3番目に多い。全道の死亡率は男性が15・1、女性が10・0。死亡率が「高い」地域は、男性が《1》上川北部(22・1)《2》釧路(21・4)《3》遠紋(20・3)《4》中空知(20・1)《5》南檜山(19・7)。女性が《1》上川北部(14・4)《2》北渡島檜山(14・2)《3》釧路(12・2)《4》南渡島(12・0)《5》宗谷(11・3)です。

■肝臓がん

 男性は罹患者数、死亡者数とも5番目に多い。女性は罹患者数が9番目、死亡者数が7番目に多い。全道の死亡率は男性が13・9、女性が4・4。死亡率が「高い」地域は、男性が《1》南檜山(31・2)《2》留萌(24・0)《3》釧路(20・0)《4》南空知(17・9)《5》日高(17・3)。女性が《1》北空知(13・2)《2》宗谷(7・7)《3》釧路(6・7)《4》中空知(6・4)《5》南渡島(5・5)です。

■乳がん

 女性のがんのうち、罹患者数が最も多く、死亡者数は5番目に多い。全道の死亡率(女性)は9・0。死亡率が「高い」地域は《1》南檜山(17・0)《2》釧路(16・5)《3》根室(12・6)《4》東胆振(12・4)《5》南渡島、北空知(11・7)です。