がんの治療費を克明に書き記した日記。中島さんは「こんなにお金かかるのかとびっくりしました」(野勢英樹撮影)

 4/26~28 抗がん剤1回目入院 45960円 タクシー代 2740円

 5/17 抗がん剤2回目外来 16000円 吐き気止め薬 3920円

 釧路市のパート中島聖子さん(50)が、乳がんの治療体験をつづった日記の一節です。中島さんは2013年4月に乳がんと診断されました。

 表紙にピンクのリボンを貼った日記には、翌年3月までの1年間に市内の病院窓口などで払った約60回の医療費の記録が、鉛筆の文字でびっしり。計算すると約70万円に上ります。「がんが治るのか、との心配がまずありました。ただ、お金のことも気がかりでした。抗がん剤1回でこんなにかかるとは…」

 中島さんは手術前にがんを小さくする抗がん剤治療を受け、支払額は1回約1万5千円で、計16回に上りました。乳房切除の手術は11日間の入院で18万円。その後の放射線治療は1回約4千円で、1カ月半の間に計30回。さらに治療中は家事もままならず、夫と3人の子供たちの食事は外食に頼ることもあって、予想外の出費もありました。

 現在3カ月ごとに受ける診察とホルモン療法で、1回3万円ほど。医師から「5年間は継続が必要」と言われています。支払いはほぼクレジットカードで済ませるため、「だんだん感覚がまひし、何万円も払うことが普通になってしまった。この先、どれだけお金が出ていくのかと思うと怖くなります」と話します。

■年平均92万円 重い負担

 がんになるといくらお金がかかるのでしょうか―。

 がん患者の経済的負担を長年研究する東北医科薬科大(仙台市)の濃沼信夫教授(68)によると、患者1人当たりの年間の出費は平均92万円です=表=。

 これは全国39病院のがん患者約3千人が2012年度、家計簿や領収書などを見て答えた調査結果です。「年間約100万円。この10年変わりません」と濃沼さん。「ただ、あくまで平均です」と強調します。がんの種類や進行度、がんになって何年たったかなどで負担は大きく異なるからです。

 年間平均92万円の出費の半分は入院や外来窓口での支払いが占めます。健康食品や民間療法への支出も少なくありません。

 もっとも、民間の保険に入っている場合や公的な制度などで、手元に入ってくるお金もあります。その額は年間平均61万円。出費からこれを差し引いた患者の実質的な経済負担は、年間平均31万円でした。

 乳がんを患った中島さんの場合、保険金約38万円、税金の還付が約5万円あり、実質的な負担は約27万円でした。それでも「負担は大きい」と感じています。

 濃沼さんらが行った同じ調査研究では、62%が「経済的な困りごとがある」と答えました。多いのは、医療費、貯蓄の目減り、収入減など。がんになって収入が減った人は30%。経済的な理由で治療が受けられなかったり、治療を中止・変更した人が6%いました。

 がんの経済的負担の特徴について、濃沼さんは「ある日突然、がんと診断され、大きな出費が必要になる」ことに加え、がんが治る時代になりつつあることを背景に「がんとは長いつきあいになる。負担も長く続きます」と指摘します。

 北海道の高いがん死亡率の減少を目指す「がんを防ごう」キャンペーン。これまでの「がんにならない」「がんで命を落とさない」予防法に加え、今後は、がんをめぐる社会的な課題や患者を支える方策なども取り挙げていきます。第8部はがんになったら誰もが直面する、お金の問題です。(生活部の編集委員・岩本進と桜井則彦が担当し、6回連載します)