伊達西小で行われた道の「がん教育出前講座」で、日鋼記念病院の益子博幸副院長(手前左)の話を聞く6年生。話の後、「治すのが難しいがんは」「小学生もがんになりますか」などの質問が相次いだ=1月23日(村本典之撮影)

 「みんなは、がんについてどんなイメージを持っていますか」。日鋼記念病院(室蘭市)の益子(ますこ)博幸副院長(55)が、白衣姿で子どもたちに尋ねました。1月23日、伊達市の伊達西小で行われたがんの授業です。

 「怖い? がんは命をなくす病気でもあるけれど、今は早期のうちに見つかれば治療を受けて社会復帰している方もたくさんいます」。聞いていた6年生59人は皆、真剣な表情です。

 益子副院長はスライドを用いて、がんは日本人に最も多い死因で、2人に1人がかかる身近な病気であることや、防ぐには「たばこを吸わない」「検診を受ける」などが大切―と分かりやすい言葉で話しました。

 学校でがんを教える「がん教育」が少しずつ広がっています。まだ数は少ないですが、自治体や学校、医療者、患者団体などが、さまざま形で試行錯誤を重ねながら取り組んでいます。

■出前講座 予算はゼロ

 伊達西小(伊達)の6年生が受けたのは、道ががん対策の一環として2012年度から始めた「がん教育出前講座」です。

 道が小学校に、地域のがん診療を中心的に担う「がん拠点病院」の専門医らを派遣し、6年生に1時間の授業をします。教材のスライドは先進地・東京都豊島区のもの。講話後、児童は学んだことをもとに家族ら身近な人に宛ててメッセージカードを書き、後日、それぞれに郵送されます。

 「がんには予防法がいっぱいあることがわかった。父や母にも伝えたい」。こう授業の感想を語った同小の青木大成(たいせい)君(12)は、カードに「ビールを飲みすぎないで」とのメッセージを書いたそうです。

 道ががん教育を始めたのは、12年4月に施行された道のがん条例に、がん教育を推進する条文を盛り込んだ時からです。

■16年度は14校

 国のがん対策に「がん教育」という言葉が初めて登場したのは、その2カ月後のこと。12年6月に作られた、がん対策を進める国の基本計画でした。また、4年半後の昨年12月には「がん対策基本法」にも、ようやくがん教育が盛り込まれました。

 道は、国よりも一足早く、がん教育の必要性を認識し、比較的早い段階から取り組んできたと言えます。

 出前講座は、12年度1校、13年度2校、14年度9校、15年度8校、16年度14校と増えています。でも道が掲げる目標「道内を21に分けた地域(2次医療圏)の全てで年1回以上実施」は達成できていません。本年度は合わせて約500人が学びましたが、全道の小6の1・2%にすぎません。

 道は「全道の小学校に募ったが、本年度希望があったのは14校だけ。がん教育に対する理解が学校現場にまだ十分浸透していない」(田中研伸(けんしん)・地域保健課主幹)と説明します。

■講師は無報酬

 一方、道ががん教育や出前講座につけた予算は、12年度以降ずっとゼロ。講師は無報酬。交通費もありません。これが現実です。

 毎年講師を務める北海道がんセンター(札幌)の近藤啓史院長(63)は「子どもたちが手を挙げて次々と質問する。検診の大切さやたばこの害など勉強したことを家に帰って話す。効果が大きい」と取り組みを評価する一方で、「もし全ての小学校に専門医が行くとなると、日常の診療ができなくなる」と危惧します。

 道内の小学校は1074校。がん教育に詳しい日本女子体育大(東京)の助友(すけとも)裕子准教授(42)は「21の全ての地域で年1回以上、専門医による教員研修を開いてはどうか」と話します。医師は学校ではなく研修会に出向き、学んだ教員が学校で子どもにがんを教える。出前講座とは別の形を提言しました。

 学校で子どもたちに、がんの正しい理解と健康や命の大切さを教える「がん教育」。いま多くの関係者が手探りで取り組んでいます。現状と課題を探ります。(生活部編集委員の岩本進が担当し、5回連載。次回から生活面に掲載します)