先生が2人で教えていた西巣鴨小の授業。「がんになる確率を下げるためにできること」を話し合う子どもたち。中央は田岡英里香養護教諭=2月14日(大城戸剛撮影)

 がん教育に積極的に取り組む先進地を訪ねました。

 約28万人が暮らす東京都豊島区。区と区教委による行政主導の形で、5年前から区立の小学校22校と中学校8校の全てで、教員ががんの仕組みや予防などを児童・生徒に教えています。

■体育や保健で

 2月14日、西巣鴨小6年1組の体育の授業です。

 「がんになる確率を下げるためにできることを、五つ考えてみよう」。担任の星哲也教諭(29)の呼びかけで、児童21人が5班に分かれて話し合いを始めました。「たばこを吸わないことだよ」「生活習慣を整えるはどうかな?」。いろんな意見が聞こえてきます。

 田岡英里香養護教諭(24)が正解を発表します。「一つは、バランスのよい食事。野菜と果物は1日400グラム食べてくださいね。でもイメージしづらいので持ってきました」と、切った青菜やニンジン、ダイコンなど本物の生野菜400グラム分を見せました。「こんなにたくさん」と驚く子らに、「これを1日で食べるにはどう工夫したらいいだろう?」と問いかけました。

 同じ日、西池袋中3年1組の保健体育の授業。内容は小6よりも詳しいようです。

 「豊島区ではがん検診の対象者にお知らせの封書が送られてきます」と安倍(あんばい)英美養護教諭(32)。検診ごとに色が違う封筒を手に、区民は全て無料で受けられることや、女子は20歳になると子宮頸(けい)がん検診が通知されることを33人の生徒に説明します。「みんなも将来この封筒が届いたら、ぜひ検診を受けてください」と呼びかけました。

 続けて、「自分の健康は自分で守ることが大切。がんは早期で見つければ治すことができます」と保健体育科の小針幸世教諭(47)。がんを早期で発見した自身の身内の体験を話し、「おうちの人に検診を受けているか聞いてほしい」と生徒たちに語りかけました。

■同じ教材使用

 豊島区は2011年4月に施行した区のがん対策推進条例に、全国で初めて「がん教育」に取り組むことを明文化しました。12年度からは区内全小中学校の小6と中3で年1時間ずつ、がんの授業を始めました。

 小学校は担任と養護教諭が、中学校は保健体育科の教諭や養護教諭が担当します。区内で一斉に始めることができた理由は、まず、がんの授業を従来の体育や保健体育の教科のカリキュラムに組み込んだこと。そして、どの学校でも同じ内容の授業が受けられるよう、小中2種類のスライド教材と、どう教えるかを解説した教員用指導書を作ったことです。

 西巣鴨小では、授業の進行は担任、説明は養護教諭と、事前に役割分担を決めたそうです。取材の日、初めてがんを教えた星教諭は「教材や指導書があり、養護や栄養士の先生が支えてくれた。特に負担は感じませんでした」と言います。

 毎年がんを教えている西池袋中の小針教諭は「生徒に聞くと、小6で教わったことをあまり覚えていません。だから繰り返し教えることが大事。大人になったとき、授業で習ったことを思い出して行動してほしいです」と思いを語ります。

 区は子どもたちへのがん教育の狙いに、「生活習慣に関心を持ち、がんにならないからだづくりに取り組む」だけでなく、「家庭でもがんを話題に取り上げ、保護者に検診や予防などの情報を普及啓発する」ことも掲げています。

 区民意識調査をみると、授業開始前(10年)と開始後(14年)で、がん検診を受けた人が31・9%から34・2%にやや増えています。区教委指導課の細山貴信統括指導主事(45)は「確かめようがありませんが、がん教育も受診率の向上に一役買っていると思いたいですね」と話しました。