草牟田小の「いのちの授業」で話す、がん患者の野田真記子さん(中央)。最後に「生きることをあきらめないで。自分の命も他人の命も大切にしてください」と子どもたちに語りかけた=2月3日

 連載3回目は、学校の先生が主にがんの知識を授業で教える東京都豊島区の例を紹介しました。一方、鹿児島県内では2010年から、がん患者が小学校などに出向き、子どもたちに命や生きることの大切さを教える「いのちの授業」を展開しています。

 2月3日、がん患者会「NPO法人がんサポートかごしま」の語り手で理事長の三好綾さん(41)と、副理事長の野田真記子さん(46)が、鹿児島市の草牟田(そむた)小の6年生3クラスで各45分間の授業を行いました。2人は乳がんの患者です。

 「今までに死んでしまいたいと思ったことがある子は、そっと教えて」。いのちの授業は、目をつぶり机に顔を伏せた児童たちへのこんな質問から始めます。

 前半は、前もって児童に書いてもらった「がん患者への質問」に答える形。病気のこと、患者の生活や生き方について話します。

 「がんと言われてどう思いましたか」という質問に、教壇に立つ野田さんは「5年前の夏でした。頭が真っ白。死んでしまうのかなと思った。しんどかった」と振り返りました。「がんになってから、うれしかったことはありますか」との質問には、「家族とがん患者の仲間の支えです。仲間と出会い、(がんと闘っているのは)自分一人ではないと分かり、うれしかった。友だちっていいな、と思いました」と答えました。

■念入りに準備

 野田さんの手には、クラス全員の氏名と質問内容、座席位置を記したメモ。この日のためにしっかりと準備したのがわかります。

 「主役は子ども。体育館ではなく教室で一人一人と目を合わせ、名前を呼んで声をかけます。限られた時間だからこそ全力で心に残る授業をしたい」。教室の後ろで授業と児童を見守る三好さんが熱く語ります。

 後半は、5年前に亡くなった上水流(かみづる)政美さん(享年64歳)を紹介し、「いのち」について考えます。がんの再発を機に、「限りある命を自分らしく生きる」という目標を立てた上水流さんは、世の中に死を伝える悲しいニュースが多いことを嘆き、この授業を始めた仲間でした。

 野田さんは、上水流さんが子どもたちに生前語った言葉や最後の授業の様子を紹介しました。「あなたは、あなたのままでいい。生きているだけで、金メダル」「未来に生きるあなたたちに、いのちをバトンタッチします」―。がんが命を奪うこともある現実と、がんになっても精いっぱい生ききった患者がいたことを、児童に伝えました。

■涙ぐむ児童も

 授業が進むにつれ、目を赤くしたり涙ぐむ子が1人、2人と増えていきました。鮫島準一校長(60)は「患者の体験と『生きる』という強いメッセージが届いたのだと思う。教員は教材などを工夫して子どもと向き合うが、死のふちに一度は立った患者の話にはかなわない」と、がんの当事者が語る授業の意義を強調しました。

 前回、先進地として紹介した東京都豊島区の要(かなめ)小でも、縁あって三好さんがほぼ毎年いのちの授業をしています。松並富美江主任養護教諭(65)は「患者の生の声は心にしみる。先生によるがんの知識の授業に、患者の生の話が加わることで、命の大切さを考える子が増えた」と証言します。

 鹿児島県内でも、まず教員が授業でがんの知識を教えてから、語り手が学校に出向きます。10年度に5校で始まったいのちの授業は、16年度は34校に増えました。県内を中心に、7年間で約8千人の小中高校生が授業を受けました。

 がんサポートかごしまは、この授業を「県内の全小学校に広げたい」と考えています。でも、語り手はまだ6人と少なく、授業の経費は会の運営費から捻出しています。一つの患者会の力には限界があります。がん患者が語る、いのちの授業の普及には、行政や県民の後押しが必要と言えそうです。