スリランカの小学生らと話す札幌がんセミナーの小林博理事長(2008年)

スリランカでの体験から生まれた小学生向けのがん教育のDVD

 道内には道や道教委以外にも、がん教育に取り組む例があります。

■物語作り教材に

 がんの諸問題の解決を目指す公益財団法人・札幌がんセミナー(札幌)は2014年、DVD教材「煙よさらば ツルカメ食堂」を作り、小学校の先生に授業で活用してもらっています。

 主人公は小6の女の子。商店街で食堂を営む父親に、がんの原因となるたばこをやめて、店内も禁煙にしてほしいと頼みます。父親はその願いを聞き入れます。さらに女の子は、商店街の吸いがらを拾い始めました。その姿を見た周囲の大人が心を揺さぶられ、商店街全体を禁煙にする物語です。

 「子どもは感性が豊か。子ども自身が考えて自分で動きだすことが大切で、子どもには親や大人を変え、地域を変える力がある」と、札幌がんセミナーの小林博理事長(89)=北大名誉教授=は信じています。

 小林理事長の原点は、札幌がんセミナーが1989年から続けているスリランカの小中学校での健康教育活動です。体の清潔を保つことから現地に多い口腔(こうくう)がんの予防まで、健康の大切さを子どもに教えています。その結果、学校に来る子が増え、さらに親や地域の喫煙率も下がりました。

 同様のことが日本でもできないかとDVD「煙よさらば―」を作り、北海道と宮城、長野、岡山、熊本の1道4県で、小学校53校の計約3700人の児童に見てもらいました。視聴から1カ月後に行った調査では、児童の6人に1人がたばこを控えるよう親や周囲の大人に伝えたり、禁煙ポスターを作るなどを「自分なりに取り組んだ」と答え、行動に変化が見えました。

 小林理事長と、調査を担当する順天堂大の湯浅資之(もとゆき)先任准教授(56)=公衆衛生学=はいま、子の姿を見た親がどう変わったかを調べています。「運動や食事に関する続編のDVDも作りたい。北海道発のがん教育教材を道内外の小学校に広げたい」と話します。

 このほか、伊達市や砂川市などでは自治体の保健師が学校でがんを教えています。

■義務教育に盛る

 文部科学省は2月14日、小、中学校などで教える内容を定めた学習指導要領の改訂案を公表。その中に初めて、がんを教えることが盛り込まれました。中学2年の保健体育で習う「健康な生活と病気の予防」の単元の中で、「がんも取り扱うものとする」と明記しました。

 「義務教育にがんが加わったことは大きい。それだけ、がん教育が大切だと国は考えているのでしょう」と、道教育大札幌校の渡部基(もとい)教授(52)=保健教育=は解説します。

 指導要領に明記されると、授業時間が確保され、がんの知識などが教科書に載り、教員用指導書も作られます。新指導要領に基づく授業が始まるのは2021年度。いま多くの先生が抱えるがん教育への不安や戸惑いが、解消されるに違いありません。

■広がる協力の輪

 専門家による協力の輪も広がっています。がん専門医らでつくる日本癌治療学会などが昨年9月、横浜市で開いたシンポジウムで、教材作成や教員研修、外部講師確保などでがん教育を積極的に支援する「横浜宣言」を採択しました。同学会前理事長の西山正彦群馬大大学院教授(61)は「がん患者を診る医療者は、がん教育にも目を広げるべきだ。学校に確実に根付くように支援したい」と話します。

 北海道のがん教育は今後、どう進めればよいのか。がん患者、医療者、行政担当者、地方議員、民間企業、メディアの6者の協働による「六位一体」のがん対策を唱える、北海道がんセンターの近藤啓史院長(63)は「この6者に教育関係者を加えた7者の『七位一体』で、がん教育を議論すべきだ」と提言します。

 北の大地の次代を担う子どもたちにがんの正しい知識や健康と命の大切さを教えることは「長い目で見て、がんになる、がんで命を落とす道民を減らすことにつながる」と強調します。=第9部おわり=

(この連載は編集委員の岩本進が担当しました)