新しく建設された橋。大ウスリー島のロシア地区に架かる(石川崇子撮影)

 中国、ロシアの国境地帯からオホーツク海へと注ぐ極東の大河アムール(中国名・黒龍江)。「極東」第4部は、古くから北海道とも関わるアムール川流域をたどり、変わりゆく姿と人々の暮らしを見つめる。(5回連載します)

 新緑のシラカバ林を抜けると視界が広がった。ロシア極東の中心都市ハバロフスクから西へ約30キロ。黄土色の雪解け水が流れるアムール川の支流の向こうに、かつての中ロの紛争地大ウスリー島が広がっていた。5月末とはいえ、吹く風は冷たい。

 完成したばかりの全長957メートルの橋を車で渡る。本紙取材班は日本の報道機関としては初めて、中ロの国境線が引かれた同島ロシア地区に入った。

 島はロシアが実効支配していたが、2008年に隣のタラバロフ島とを合わせて、面積をほぼ2等分する形で国境を画定、中ロ両国は長年の領土紛争に終止符を打った。

検問なく往来

 本来、ロシアでも国境地帯の橋や港湾の警備は厳しい。緊張しながら橋を越えたが検問などは一切なく、往来は自由だった。島内では乳牛がのんびりと草をはみ、牛舎が並ぶ。道内の酪農地帯にいるようだ。

 橋から約2キロ奥に「注意!国境区域 入域は許可必要」とロシア語と英語で書かれた警告板があった。これ以上は近づけない。約5キロ先の国境線の向こう側には、中国が建てた観光客用の仏塔(高さ81メートル)が見えた。国境線は現在、閉じられている。

 すぐ横の川面では、十数人の釣り人が車を止めて釣りを楽しんでいる。ハバロフスクの年金生活者ニキーチン(61)は、ウオツカを注いだ小さなコップを傾けながら、「昔は中国と仲が悪かったが、国境が決まってから安心して釣りを楽しめるよ」と問わず語りに語った。

 同市の警備員イワノフ(63)は、旧ソ連時代、現在は中国領となった大ウスリー島西側のソフホーズ(国営農場)で牧草刈りの仕事をしていたという。「平和になったのは確かだが、島の西側に自由に行けないのは寂しいね」

見えぬ中国側

 イワノフらは、中国側が建設中だったショッピングセンターが、昨年夏の洪水で大きな被害を受けたといううわさを教えてくれた。国境線のすぐ向こう側なのに、真相はわからなかった。

 最後にイワノフは苦々しげに言った。「将来、島の国境を自由に行き来できたらロシア人は喜んで中国側へと買い物に行くだろう。中国の方が安いからね。でも、中国が強くなりすぎることはロシアにとってはよくないことなんだ」=敬称略=

◇アムール川◇
 モンゴルに源を発し、中国とロシアを流れてオホーツク海に至る。長さ約4500キロ、流域面積205万平方キロで、太平洋に注ぐ河川としては最長、最大。毎秒平均1万立方メートルの流量は石狩川約20本分。供給される膨大な淡水によって流氷ができ、鉄分などの栄養分が同海の豊かな生態系を育む。古くから交易路としても利用されている。

◇大ウスリー島◇
 アムール川の中州の島でハバロフスクの対岸にある。中国名は黒瞎子島(ヘイシャーズ島)。1929年からロシア(ソ連)が実効支配していたが、2008年に島中央部を南北方向に縦断する形で中ロの国境線が定められた。面積は約340平方キロメートル。北方領土の歯舞群島(計100平方キロメートル)と色丹島(253平方キロメートル)の合計にほぼ相当する。