船べりに複数の板張る

展示ケースから取り出した板綴舟「カリンパテシカチプ」の模型(金本綾子撮影)

展示ケースから取り出した板綴舟「カリンパテシカチプ」の模型(金本綾子撮影)

船べりに板を複数張り付けた「カリンパテシカチプ」の特徴が分かる船首

船べりに板を複数張り付けた「カリンパテシカチプ」の特徴が分かる船首

模型舟の底には左右に小さなへこみがある。帆柱を立てた可能性がある

模型舟の底には左右に小さなへこみがある。帆柱を立てた可能性がある

函館市中央図書館が所蔵する「蝦夷紀行附図」収録の「蝦夷舩ニテ渡海之圖」

函館市中央図書館が所蔵する「蝦夷紀行附図」収録の「蝦夷舩ニテ渡海之圖」

博物館2階に展示されている板綴舟と学芸員の城石梨奈さん

博物館2階に展示されている板綴舟と学芸員の城石梨奈さん

 釧路市立博物館4階の常設展示場の片隅に、珍しい板綴舟(いたつづりぶね)の模型があるのをご存じだろうか。全長95センチ、幅25センチ。幕末の作らしい。学芸員の城石梨奈さん(35)によると、「板綴舟の中では釧路地方特有のカリンパテシカチプと呼べる舟です。その模型を、私はこの博物館でしか見たことがありません」という。今回は、博物館で見過ごされがちなこの黒い板綴舟の模型に注目する。(椎名宏智)

 板綴舟の模型は、通常、透明なアクリルケースに入って展示されている。今回は特別にケースから出してもらい、撮影した。

高さを補う特徴

 板綴舟とは、アイヌ民族の外洋船のことだ。イタオマチプと表記されることが多い。博物館の表示もそうなっている。

 ただ、城石さんは「この板綴舟の模型の場合、釧路地方特有の特徴があります。船べりに複数の板(最大4枚)を張り付け、高さを補っている点です。こうした特徴を持つ板綴舟は、いくつかの文献でカリンパテシカチプ(またはカリンパチプ)という名で紹介されています」と話す。

 アイヌ語でカリンパとは桜の樹皮を指す。実際の板綴舟は、船体と船べりの板をつなぐ素材に桜の樹皮やクジラのひげなどを用い、板と板のつなぎ目には、松ヤニなどを詰めて浸水を防いだらしい。

大きな舟も展示

 実は、博物館にはこれとよく似た大きな板綴舟が2階に展示されている。全長7メートル余り。それでも原寸よりやや小さいという。博物館が地元のアイヌの人たちに製作を委託し、進水式を経て1993年に収蔵した。館内表示はイタオマチプだが、城石さんによると、やはりカリンパテシカチプと呼べる舟らしい。

 こちらは今年2月、漫画「ゴールデンカムイ」の作者野田サトルさんが博物館を訪れ、取材した。4月になって野田さんから、帆の取り付け方などについて追加の問い合わせがあり、調べたのが城石さんだった。「2階の板綴舟は帆柱の位置と帆の張り方が、江戸時代とは違う可能性があるのです」という。

底にへこみ二つ

 城石さんは「模型の船底を見てください。中央部の左右に二つへこみがあります。帆柱をそこに立てたかどうかは分かりませんが、気になります」という。

 現に、函館市中央図書館が所蔵する「蝦夷紀行附図(えぞきこうふず)」収録の「蝦夷舩(ふね)ニテ渡海之圖(とかいのず)」(江戸後期)は帆柱が左右に2本描かれ、その間に帆を張っている。蝦夷生計図説(えぞせいけいずせつ)(1823年)にもこれと同様の絵がある。これに対し、博物館2階の板綴舟は、舟の真ん中に帆柱を立て、帆をつるしている。

 博物館の資料によると、板綴舟の模型を寄贈したのは市立釧路図書館の初代館長佐藤直太郎さん(1888~1975年)。寄贈は66年で、収集年は分かっていない。佐藤さんは「収集した時点で百年ぐらい経過していたとみられる」と書き記しており、博物館が幕末ごろの作と推定する根拠はこれだ。

 なぜ板綴舟の模型を作り、世代を超えて受け継がれてきたかは分からないらしい。佐藤さんの記録には「アイヌの人たちが舟の模型を他の宝物と一緒に保存しているのを見たことがある」ともある。大切に扱う理由があったのだろう。

 釧路市立博物館はアイヌ民族関連の収蔵品約800点のうち、およそ半分を常設展示している。月曜休館。開館時間は午前9時半~午後5時。入館料は大学生以上470円、高校生250円、小中学生110円、小学生未満は無料。問い合わせは同館(電)0154・41・5809へ。