九州新幹線鹿児島中央駅のホームに降り立つ観光客ら。2年前の全線開通で人の流れが激変した=3月18日

 北海道新幹線の新青森―新函館(仮称)間は、2016年3月中旬に予定される開業まで3年を切った。日本が世界に誇る高速鉄道の上陸で北海道はどう変わるのか。道外の先行事例をもとに、3年後の北海道の未来像を予想するとともに、その日に備えた地元の取り組みや課題を紹介する。(6回掲載します)

 「交通インフラが整うとはこういうことなのか」。桜島を対岸に望む鹿児島市の城山観光ホテル。運営会社の伊牟田均社長(65)は、九州新幹線博多―鹿児島中央間が全線開業した2011年3月12日以降の変化に驚きを隠さない。10年度に61%だった平均客室稼働率が、開業を挟んだ11年度には79%まで跳ね上がったのだ。

 全線開業により博多までの所要時間は1時間17分と55分短縮。山陽新幹線への直通運転で新大阪までは4時間を切った。関西からの宿泊客は倍増し、11年度の総宿泊客数は前年比1・4倍の18万人に。12年度もこの水準を維持する見通しだ。

 地元を舞台にしたNHK大河ドラマ「篤姫」放映による08年の観光ブームと比べても「効果の次元は全く違う」。同社は来年にも、20億円を投じホテルを全面改修。さらに地元企業と共同で市中心部に20階建て商業ビルを建設する構想を打ち上げた。「開業効果をてこに鹿児島の新しいランドマークをつくる」。伊牟田社長は意気込む。

 ■市民に自信

 昨年12月に新幹線開業10周年を迎えた青森県八戸市。01年に311万人だった観光客の入り込みは、11年に676万人と今も増加が続く。持続する開業効果は、市民の「気付き」がもたらした。

 開業を5年後に控えた1997年、市や商工会議所などを中心に特産品開発に着手。十数種の試作品の中から商品化されたのが郷土料理の「八戸せんべい汁」だった。「今更せんべい汁なんて」との声も出る中、99年に市内で販売を始めると、目標の20倍に当たる年4万個を売り上げるヒット商品になった。

 八戸観光コンベンション協会の大岡長治専務理事は「開業をきっかけに市民が自分のまちの魅力に気付き、自信をつけた」と振り返る。日常の買い物の場にすぎなかった館鼻(たてはな)岸壁朝市も今や週3万人が詰めかける観光資源だ。まちぐるみの開業準備と、そこで得た自信が、地味な工業都市だった八戸を東北有数の観光都市に変えた。

 ■全道関心を

 「開業日に市民参加のイベント開催を」「プロの観光ガイドの育成を」―。22日、函館市内のホテルで開かれた通称「はこゼミ」。受講生14人が開業に向けたまちづくりのアイデアを次々披露した。

 はこゼミは市や商工会議所などでつくる北海道新幹線新函館開業対策推進機構の主催。若手経営者らを募り、昨秋から先進地視察や勉強会を続けてきた。

 3年後の函館は、東北はもちろん、羽田空港経由よりも新幹線の方が使い勝手が良くなる北関東からの入り込みも大幅に増えるはずだ。函館商工会議所の松本栄一会頭は「この好機を生かさない手はない」と準備に全力を挙げる考えを示す。

 ただ、開業効果への関心は道南以外にほとんど広がっていないのも現実。JR東日本出身で開業地の事例に詳しい清水慎一・立教大観光学部特任教授は「札幌の経済界は『新幹線がほしい』と言ってきた割に、新函館の開業効果を軽視しているのでは」と指摘する。

 道や経済界が求める札幌延伸の前倒しが実現するかどうかは、新函館開業の実績と無関係ではないはずだ。「国内最速の地上交通」が3年後に上陸する意味を、北海道全体が「自分のこと」と受け止められるかどうかが問われている。(函館報道部 谷口宏樹)

 ◇新幹線の開業効果◇

 開業1年目の利用者数は、前年の在来線利用者よりも1・5倍前後増える例が多い。

 国土交通省のまとめでは、2004年に先行開業した九州新幹線新八代―鹿児島中央間は51%増。11年に全線開業した同新幹線のうち熊本―鹿児島中央間は64%増。02年開業の東北新幹線盛岡―八戸間も51%増えた。

 開業効果が中長期的に持続する例も少なくない。盛岡―八戸間の開業5年目の利用者は1年目よりもさらに11%増加。長野新幹線高崎―長野間の開業9年目の利用者も開業直後より13%増えた。