北陸本線100周年記念のイベント列車の乗客を出迎えた「レディー・カガ」たち=10月14日、石川県加賀市のJR加賀温泉駅

 北海道にとって新幹線誘致競争の時からのライバル・北陸地方。JR北海道の相次ぐトラブルで、あと2年半を切った新幹線開業への盛り上がりを欠く北海道とは対照的に、北陸は1年早い開業へ着々と準備を進める。北陸新幹線沿線の開業準備の現状を取材し、北海道新幹線沿線が取り組むべき課題を考えた。

 「レディー・カガ」。米人気歌手の名をもじって命名された女性グループが、2015年3月開業を予定する北陸新幹線のPRに一役買っている。

 「いらっしゃいませ。加賀温泉郷へようこそ」。10月14日、石川県加賀市のJR加賀温泉駅のホーム。旅館のおかみや芸者、土産物店員ら12人の女性が並び、イベント列車で到着した160人の乗客を出迎えた。彼女たちこそがレディー・カガの正体だ。

 ホームに降りた東京の会社員刑部(おさかべ)彰悟さん(35)は「きれいな女性は印象に残る。新幹線が開業したらまた来ようという気持ちになりますね」と笑顔を見せた。

 ■自前の予算で

 レディー・カガは加賀温泉郷で働く女性たち約100人をメンバーに11年10月に発足した観光PR部隊。県内外の観光イベントやインターネット動画などに登場、加賀の魅力をアピールしてきた。

 加賀市と小松市にまたがる加賀温泉郷は、金沢からJR特急で約25分。関西の奥座敷として年間宿泊客数220万人を数えるが、バブル期からは半減し、じり貧傾向が続く。

 その温泉郷が千載一遇の好機ととらえるのが新幹線の金沢開業だ。東京―金沢間は最速2時間30分と現行の在来線特急よりも1時間17分短縮される。

 「現在、首都圏からの宿泊客は全体の1割。これを増やさないと温泉の将来はない」。レディー・カガを仕掛けた石川県旅館組合青年部加賀支部の萬谷浩幸支部長(38)は強調する。

 温泉で働く女性を主役にしたのは、PRにお金をかけられない支部の財政事情が大きかった。それでも「行政が絡むと話が進まなくなる」(萬谷支部長)と自前の予算80万円だけでポスターと動画を作成。ネーミングの妙と「実物のおかみが出ている」本物感が関心を集め、11年秋に公開したネット動画の再生回数は3カ月で30万回に及んだ。

 この民の発想が官に刺激を与えた。石川県は、新幹線開業100日前の14年10月、JR東京駅近くで開かれる「日本橋・京橋まつり」のパレードに、能登キリコ祭りの大灯籠などを参加させる。昨春からまつり実行委と交渉を重ね、合意を取り付けたのだ。

 16年3月に開業を予定する北海道新幹線にとって、1年早く開業する北陸新幹線は最大のライバル。ともに東京駅を列車の起点とし、どちらが首都圏からより多く集客できるかの競争になる。

 ■薄い競争意識

 だが、開業準備に携わる道内の関係者の間に「北陸との集客競争」という意識は薄い。函館商工会議所青年部は4月、新幹線開業準備委員会を設立し、視察や勉強会を精力的に重ねている。鈴木新太郎委員長(50)は「函館の魅力を自分たちで再発見し、発信する取り組みを進めたい」と意欲的だが、PR事業の具体化はこれから。先を行く「北陸」にどう対抗していくかという戦略は見えない。

 対照的に北陸側は強烈に「北海道」を意識している。石川県は、北海道新幹線が開業を予定する16年3月に合わせ、県内各地で食のイベントを企画。「16年3月こそ私たちの勝負の時。北海道ブランドにかなわないからこそ先手を打つ」。県観光戦略推進部の山本重則観光振興課長補佐は意気込む。

 過去の新幹線開業の例をみると、1年目の利用者数は、前年の在来線利用者数よりも1・5倍前後増えてきた。北海道新幹線で期待されるそんな「開業効果」を打ち消しかねない勢いが、今の北陸にはある。(函館報道部 袖山香織)

 ◇北陸新幹線◇
 北海道新幹線などとともに、全国新幹線鉄道整備法に基づき国が1973年に決めた整備計画に盛り込まれた整備新幹線5路線の一つ。日本海回りで東京と大阪を結ぶ計画で、高崎(群馬県)―長野間は97年10月に開業。「長野新幹線」と呼ばれている。2014年度末開業予定の長野―金沢間に続き、金沢―敦賀(福井県)間は25年度開業を目指している。敦賀以西のルートは未公表で、国土交通省は新幹線と在来線を直通運転できるフリーゲージトレインの導入を検討している。