初めて臨んだ記者会見で「安全に開業したい」と力を込めた島田修次期社長(手前)だが、課題は多い=13日、札幌市のJR北海道本社

 「新幹線開業に向けた車両の準備も進み、2月にメーカーへ発注しました」

 12日、JR北海道の野島誠社長にとっては任期中最後の定例記者会見。記者からの再度の質問にようやく、北海道新幹線開業に向けた新たな動きを紹介した。

 幹部の一人は「新幹線の話題は積極的に発信したいが、許される状況ではなかった。国との調整で『質問に答える形なら』と落ち着いたようだ」と舞台裏を語った。

 ■PRどころでは

 関係者によると、昨年12月ごろには、北海道新幹線仕様の車両デザインの原案ができあがっていた。だが、当時はレールの異常放置や検査データの改ざんなどの問題が相次いで明らかになった時期。車両デザイン公表どころではなかった。

 12日の会見で、遅れていた北海道新幹線の開業PRは緒についた。同社はこれまで運転士20人、整備士30人など約100人の新幹線技術スタッフを養成。今後、さらに技術系社員をJR東日本へ出向させるなど、開業準備を加速する構えだが、同時に「在来線の安全体制の再構築」という大きな課題も抱えている。

 JR北海道は昨年、一連の事故や不祥事の対応に追われた。11月からは一部特急の減速・減便を実施。安全対策の強化で傷んだ枕木の早期交換やコンクリート化などにも着手した。今後も国の事業改善命令や監督命令に従って、安全対策を進める方針だ。

 ■在来線との両立

 この春の人事異動では、技術や計画部門も含めた新幹線準備に関わる人員を現行の169人から270人に増強する。現場のベテランが新幹線準備に取られ、在来線の安全レベルの維持と両立できるのか。実際、函館保線管理室では人事異動後、新入社員の配置まで人員が2人減るなど、一部の保線現場で影響が心配される。

 保線現場のベテラン社員は「近年の保線予算削減で仕事が減り、技術力が維持できない。下請けも単価の高い新幹線工事を優先するため、現場の人員が不足しがちだ」と打ち明ける。

 4月1日に社長に就任する島田修氏は、13日の会見で新幹線開業準備について「現況での制約はある」とし、在来線の安全体制の再構築を優先する考えを説明。その上で「安全に開業させるため、滞りなく準備を進めたい」と述べた。

 一方、中央政界からは「北海道新幹線はJR東日本に任せてはどうか」との声も上がっている。実際、JR東日本の執行役員である西野史尚(ふみひさ)仙台支社長が4月1日、JR北海道副社長に就任し、「東日本色」は一段と濃くなる。1964年の東海道新幹線開業以来、乗車中の旅客が死亡した事故を起こしていない新幹線を海外へ売り込むプロジェクトが進行中で、「事故が起これば、新幹線のブランド価値に傷がつきかねない」との危惧もあるからだ。

 在来線の安全体制の再構築と新幹線の開業準備。優先順位を付けにくい課題のバランスをどう取るか。再生へ待ったなしの同社で、経営陣は難しいかじ取りを迫られている。(経済部 米林千晴)

 2016年3月に予定される北海道新幹線新青森―新函館(仮称)間の開業まであと2年となった。開業に向けての課題や、その効果を全道にどう広げていくのか、取り組みと現状などを紹介する。(5回連載します)

 ◇北海道新幹線◇
 新青森―新函館(仮称)間148・8キロで2005年着工し、16年3月に開業予定。途中駅は奥津軽(仮称、青森)、木古内。JR東日本のE5系とJR北海道の独自車両が東北新幹線(東京―新青森間)へ相互乗り入れし、最高速度は260キロ。開業時は青函トンネルを含む貨物列車との共用走行区間(82キロ)で同140キロに減速する。開業時の所要時間は東京―新函館間約4時間、新青森―新函館間約1時間の見込み。北海道新幹線区間内の保線作業や全列車の運行は、E5系も含めてJR北海道が受け持つ。