開業から10年、駅前の一等地には今も畑が広がる九州新幹線新八代駅=熊本県八代市

新幹線の停車は1時間に1本程度。乗降客も少ない

 現在、博多―鹿児島中央間を結んでいる九州新幹線は2004年、新八代(やつしろ)―鹿児島中央間が先行開業した。当時の始発・終着駅、新八代駅(熊本県八代市)の役割は、1年8カ月後に開業する北海道新幹線新函館北斗駅(北斗市)のそれとよく似ていた。両駅は、新幹線のルート設定が優先され、中心市街地から離れた郊外の田園地帯に設置された点も共通する。開業から10年、新八代駅の周辺はどう変わったのか。現地を訪ね、新函館北斗駅とその周辺のまちづくりの今後を考えた。(函館報道部 安藤健)

 新幹線の駅がにぎわいを生み、まちづくりを加速させるとは限らない―。博多から九州新幹線「さくら」に乗って約50分。新八代駅を降りてそう実感した。駅前の一等地は今も大半が畑のままだ。

 駅東口にはビジネスホテル1軒とマンションが2棟建つのみ。100メートルほど南東方向にある「八代よかとこ物産館」は、なぜか入り口が駅側になく、全く目立たない。西口でJR九州などが運営する計200台分の駐車場だけが活況を呈している。新幹線で福岡に遊びに行くという八代市の介護職員三宅厚子さん(59)は「新幹線に乗る市民は車でこの駅に来ます。車で来やすい場所だから、不便は感じません」と話す。

 ■今でも田園風景

 八代市の中心市街地は、新八代駅から3キロ南西に形成され、JR鹿児島線の八代駅に近い。新幹線の駅も当初は同駅に併設される計画だったが、線路の曲線がきつくなりすぎるとして、開業6年前の1998年に現在地に変更された。

 当時、新駅周辺はすでに農地としての整備が完了していた。再開発のため区画整理事業を行う場合、大規模な調整池設置などに多額の経費がかかる。市は「民間活力導入のための側面支援」(企画政策課)に方針転換。駅前広場や道路、上下水道など最低限のインフラ整備を行った上で農地転用の規制を緩和し、企業進出を促そうとした。

 だが八代商工会議所の那須哲夫専務理事(63)が「既存の八代駅がある中で、新駅前の開発に力を入れるのは難しい」と言うように、人口約13万人の八代市にもう一つの市街地を形成するだけの経済力や集客力はない。アウトレットモールの誘致を打診したところ「開発業者から『商圏人口が足りない』と言われた」(那須専務)。こうして農地の転用が進まないまま、新八代駅前には今も田園風景が広がっている。

 04年の先行開業時にJR九州が採った戦略の影響も大きかった。

 ■接続短縮を優先

 JRが新八代駅の役割として最重視したのは、博多発着の在来線特急と新幹線の接続時間をいかに短縮するか。このため新八代駅は一つのホームを挟んで在来線と新幹線が向かい合って発着する異例の構造を採用。在来線と新幹線の乗り換えはホームを横切るだけでよく、乗り継ぎ時間は3分間と極限まで短縮された。

 当初から博多―鹿児島中央間の「中継点」と位置づけられた結果、新八代駅は地元が期待した「終着駅効果」によるにぎわいを得ることがないまま、11年の九州新幹線全線開業で中間駅の一つになった。

 新八代駅を取り巻く状況は、新函館北斗駅のそれと酷似する。地元の北斗市は駅前で区画整理事業を手がけるものの、8キロ南の上磯地区にある中心市街地への影響を考慮し、大型小売店の進出を制限。かつての農業地帯に投資を呼び込むには至っていない。

 函館行き在来線リレー列車との接続を重視した駅の構造や、新幹線の札幌延伸後に中間駅の一つになる運命も新八代にそっくりだ。

 それでも新八代駅は、新幹線と高速バスの乗り継ぎ拠点としての役割に活路を見いだしつつある。

 九州自動車道八代インターチェンジ(IC)から約3キロという地の利を生かし、JR九州など3社が新八代―宮崎間に高速バス「B&Sみやざき」を1日16往復運行。新幹線とバスの乗り継ぎで博多―宮崎間は約3時間と、JR日豊線経由よりも2時間短縮した。出張でよく利用するという福岡市の会社員松木昇さん(46)は「飛行機よりは時間がかかるが、安いのがありがたい」と話す。

 九州新幹線が全線開業した11年3月以降、新八代駅の乗降客数が1日平均約1800人とJRの目標値をほぼ達成しているのは、この新たな役割によるところが大きい。八代市の宮川武晴企画政策課長(48)は「九州地図のほぼ真ん中という立地を生かし、南九州各地との横軸連携の拠点として駅の利用促進を図りたい」と意気込む。

 新函館北斗駅も、自動車専用道函館新道の七飯本町IC(渡島管内七飯町)とは直線距離で約4キロ。今後、周辺の道路整備が進めば、函館空港や、道央自動車道を経由して札幌方面に向かう高速バスの乗り継ぎ拠点となる可能性もある。

 新八代駅の10年間を「手本」とするか、「失敗例」ととらえて教訓とするかは、地元の考え方一つ。どちらにしても新函館北斗駅と周辺のまちづくりにとって貴重な「先行指標」であることだけは確かだ。