宮城県女川町の豊かな海の幸を丸ごと味わえる女川丼=女川町の「おかせい」

「『昔の函館ラーメンに似ている』と言われることもある」と話す紺野時男さん=岩手県釜石市の「こんとき」

磐梯カツ丼を持つ矢吹博さん。ご飯の上に甘辛いソースがかかったトンカツがのり、食欲をそそる=福島県会津若松市の「十文字屋」

「深浦のマグロは脂の乗る具合がちょうどいい」と話す小野康人さん。地場産の野菜も楽しめる=青森県深浦町の「匠屋」

「田酒」スイーツと開発したセブールの戎亘社長=青森市

超特大ジャンボシュークリームを持つ白土幸江さん=福島県いわき市の「白土屋菓子店」

移動販売車で「さんまなたい焼き」を焼く平塚浩介さん=宮城県女川町

地元産の柿を使った柿ソフト(左)とミックスソフト(右)=岩手県大船渡市

 来年3月26日の北海道新幹線開業によって、道内から東北各地への移動時間が短縮される。東北では新幹線の停車駅だけでなく、周辺の観光地でも旅行客を呼び込もうと、PRに力を入れている。特に東日本大震災からの復興途上の被災地では、新幹線開業への期待が高く、各地の特色を生かした料理やスイーツでもてなそうとする動きが広がっている。東北の「ご当地グルメ」事情を追った。(東北臨時支局 安本浩之)

 海鮮十数種 女川丼 / 極細 釜石ラーメン

 マグロ、カツオ、イクラ、銀ザケ…。十数種類の魚介類の刺し身が盛られた丼がテーブルに運ばれる度に、客から「おーっ」と歓声が上がる。宮城県女川町の「お魚いちば おかせい」が提供する「女川丼」(1300円)だ。魚の販売・加工を手がける女川町の「岡清(おかせい)」が震災後に開いた飲食店で2012年初めからメニューに加え、人気に火がついた。

 丼登場のきっかけは偶然だった。店長の岡芳彦さん(30)が「自分が食べたくなる丼」としてボリュームたっぷりの海鮮丼を試しに作り、来店した知人らに食べてもらった。知人がツイッターに写真を載せると、1万件以上の反響が寄せられ、「女川丼」として売り出すことになった。特選女川丼(2600円)になるとトロ、ウニ、クジラ、アワビ、カニなどネタの豪華さが増す。

 現在は平日200食、週末は約800食が売れる大ヒットとなったが、採算は度外視しているという。岡さんは「女川の名を借りている以上、半端なことをするわけにはいかない。女川丼は地域貢献です」と心意気を語った。

 東北新幹線を新花巻駅で降り、JR釜石線に乗り換えて約2時間。岩手県釜石市では「釜石ラーメン」を広く売りだそうとしており、北海道新幹線の開業にも期待が高まる。特徴は極細の縮れ麺と、琥珀(こはく)色をしたしょうゆ味のスープだ。極細麺は製鉄所などで働く忙しい男たちのために、早く調理できるように工夫されたもの。現在は市内の「釜石ラーメンのれん会」の22店で食べられる。

 「ラーメンにこだわりがある九州と北海道の人でも、『こんなにスープの色が薄いのにコクがあるんだ』と感心していきます」。仮設飲食店街「釜石はまゆり飲食店街」でラーメン店「こんとき」を営む紺野時男さん(66)はそう語る。

 津波で大切な店を流されたが、「釜石ラーメンを復興の起爆剤に」と東京でのラーメンショーにも出店するなど普及に奔走。伝統を受け継ぐ釜石ラーメン(500円)で「通」をうならせる。共に店に立つ妻陽子さん(67)は「体と心に優しいほっとする味です」と笑顔で話した。

 福島県会津若松市でカツ丼と言えば、ソースをかけたトンカツをご飯にのせたソースカツ丼を指す。しのぎを削る各店の中でも個性的なのが、計450グラムのトンカツがご飯の上に豪快に盛られた十文字屋の「磐梯カツ丼」(1200円)だ。

 福島県を代表する名山・磐梯山にちなんだこのメニューは1993年に誕生した。原発事故発生直後は客足が落ちたが、インターネットで話題となり、今は休日に全国から千人近い客が訪れる。経営する矢吹博さん(43)は「お客さまに助けられてます。北海道の人にもぜひ来てもらい、実物を見てほしい」と語った。

 大間マグロが有名な青森県だが、マグロ水揚げ量県内一は日本海に面した深浦町。新たなマグロの食べ方として、町内7店が提供して人気となっているのが「深浦マグロステーキ丼」だ。

 深浦産本マグロの刺し身を生のままか、ジンギスカン鍋で焼いて、辛みそ、ごまだれなどで味付けし、錦糸卵やマグロ節をかけたご飯と一緒に味わう。深浦マグロは脂が少ないのが特徴で、焼くと牛肉のような味わいがする。同町の「匠(たくみ)屋」を経営する小野康人さん(49)は「片面を焼いて食べるのが一番人気です」と話す。13年6月から累計9万8千食が売れており、確実に食べるには予約が望ましい。

 仕掛け人の同町観光振興係長の鈴木治朗さん(43)は「町外では食べられないので、ぜひ深浦に食べに来てください」と力を込めた。

 田酒スイーツ / 福島・特大シュ

 青森県の銘酒として全国的に知名度が高い田酒(でんしゅ)。この酒かすを使ったスイーツを、東北新幹線新青森駅から約3キロ北にある青森市の洋菓子店「セブール」が販売している。

 田酒スイーツは、プリン(270円)、チーズタルト(190円)、あんパン(130円)、ラスク(380円)。いずれもアルコール分はないが、食べると酒特有の甘い香りとコクが楽しめる。包装には本物の「田酒」のロゴを使用。特に人気が高いのはプリンとあんパンだ。

 田酒の蔵元、西田酒造の協力を得て、2010年から販売が始まった。セブールの戎亘(えびすわたる)社長(54)は「酒かすは発酵食品で乳製品のプリンやタルトに合います。全国に同じような商品はないでしょう」と話す。

 福島県いわき市の白土屋菓子店は、30年前から巨大なシュークリームを販売し、今も大勢のファンが訪れる。店で最大の超特大ジャンボシュー(1836円)は直径約30センチ。生クリームが最大1・5キロ、さらにカスタードクリームも入る。直径10センチほどの通常の「ジャンボシュー」(291円)までサイズは4種類だ。

 男性客から「彼女の誕生日に大きいシュークリームを贈りたい」と頼まれ、超特大サイズを作ったのがきっかけだ。シュークリームを先駆けに、地元の好間(よしま)町商工会の各店は、ハンバーグやスパゲティなど「ジャンボメニューでの町おこし」に取り組んできた。

 原発事故の風評被害を乗り越えてきた経営者の白土幸江さん(65)は「全国から『送ってください』という要望はあるけれど、生ものなので買いに来てくださいと話しています」。

 全国有数のサンマの水揚げを誇る宮城県女川町。被災者の自立を支援する一般社団法人「コミュニティスペースうみねこ」は、サンマ形をした「さんまなたい焼き」(130円)を販売し、ユニークさで話題となっている。

 長さ約10センチのサンマ2匹が並ぶ形の皮の中にあんが入る。13年3月に販売が始まり、今年7月には専用の移動販売車が完成、各地のイベントで出張販売する。「初めての人には『どこにサンマが入ってるの?』と聞かれます」と苦笑いするのは、担当者の平塚浩介さん(28)。「珍しいのでお土産に」と10個、20個単位で買う人が多い。

 「道の駅さんりく」(大船渡市三陸町)は地元特産の柿を使った全国初の柿ソフトクリーム(280円)を1998年から販売し、多くの支持を集めている。

 同市がある岩手県気仙地方の小枝(こえだ)柿という渋柿を熟させてペーストにし、ソフトクリームに混ぜている。干し柿のような風味と後を引かない甘みが魅力となり、昨年も1万4千個が売れた。柿とバニラのミックス味もある。開発を手がけた第三セクター三陸ふるさと振興の石川順さん(43)は「柿の風味を残すのに苦労しました。リピーターも多いです」と話している。