北海道新幹線の恩恵を道内全域にどう行き渡らせるかをテーマに意見を交わしたフォーラム

しまだ・おさむ 58年、東京都生まれ。東大卒。旧国鉄を経て、87年に分割・民営化されたJR北海道で鉄道事業本部企画部長などを歴任し07年に取締役総務部長、10年に常務、12年にJR北海道ホテルズ社長、14年から現職。57歳。

なかの・すすむ 65年、東京都生まれ。小学校卒業後に函館市に転居。95年に米ペンシルベニア州立イースト・ストラズバーグ大を卒業し、同年に五稜郭タワー入社、14年から現職。五稜郭築造150年祭の企画などに尽力。50歳。

きし・くにひろ 70年、石狩管内浜益村(現石狩市)生まれ。北大大学院工学研究科博士後期課程修了後、同院助手、英ロンドン・サウスバンク大客員研究員を経て、08年から現職。道運輸交通審議会副会長などを務める。45歳。

たかむき・いわお 38年、東京都生まれ。東京外大卒後、62年に日銀入りし、札幌支店長などを経て、93年に北洋銀入行。00年に頭取、06年に会長。04年から札幌商工会議所会頭、北海道商工会議所連合会会頭を務める。76歳。

たかはし・あつし 67年、東京都生まれ。89年にJR東日本に入社し、千葉支社営業部長、グループ会社のびゅうトラベルサービス社長などを経て、15年から現職。日本観光振興協会寄付講座客員講師なども務める。48歳。

来場した約550人がパネリストのやりとりなどに熱心に聞き入った

 北海道新幹線が来年3月26日に開業する。大勢の人々を高速で運ぶ、この新たな交通機関が道内の観光や経済にもたらす影響について考える道新フォーラム「北海道新幹線の開業効果をどう広げるか」(北海道新聞社、北海道商工会議所連合会、札幌商工会議所主催)が2日、札幌市中央区の道新ホールで開かれた。高橋敦司・JR東日本鉄道事業本部営業部担当部長が北陸新幹線など既存の新幹線を例に挙げながら北海道新幹線を使った観光戦略について基調講演したのに続き、高橋氏やJR北海道の島田修社長、道商連の高向巌会頭ら5人がそれぞれの立場から、2030年度の札幌延伸も視野に新幹線の経済効果を道内全域に波及させるための方策などを議論した。

〈パネリスト〉
高橋敦司氏=JR東日本鉄道事業本部営業部担当部長
島田 修氏=JR北海道社長
中野 晋氏=五稜郭タワー専務
岸 邦宏氏=北大大学院工学研究院准教授
高向 巌氏=北海道商工会議所連合会会頭

<進行役>
五十嵐正剛 北海道新聞経済部長

■空路と鉄路の併用期待 中野氏

■企業間の関係芽生える 高向氏

■寒冷地対策幅広く備え 島田氏

 ――北海道新幹線の開業を来年3月に控え、その効果を道南のみならず全道に波及させる方策を探っていきます。どのような期待を持っていますか。

 中野 交流人口の拡大で、地域経済の活性化を図りたいと思っています。道内を訪れる観光客は、近年では外国人が増えていますが、本州など道外からは最も多かった20~25年くらい前から少しずつ減っているのが実情です。北海道新幹線の開業が観光客が来るきっかけとなり、間違いなく交流人口は増えるでしょう。

 今は新千歳空港が道内の交通の中心となっていて、本州からは飛行機で新千歳に入り、新千歳から帰る人が大半という状況が続いています。開業後は、新幹線で入って新千歳から出る、あるいは新千歳から入って新幹線で出るという新しいルートができることも期待しています。

 高向 函館―青森間は、かつて連絡船で4時間かかりました。青函トンネルができて2時間になり、新幹線で走ると1時間。青森と函館が非常に近くなり、一つの経済圏になります。買い物にも、病院にも行ける。往来が増えることで、企業間の新たな協力関係も生まれるでしょう。

 東北、北関東の人たちにとっても北海道が近くなる。観光に行ってみよう、一緒にビジネスをしてみようという動きが始まります。特に埼玉県や群馬県、栃木県など北関東の人たちが大勢、新幹線で北海道に来ると思います。今は羽田空港まで出て、そこから新千歳空港や函館空港に向かう必要があり、非常に不便ですから。

 商工会議所では「函館プラス1」というキャンペーンを始めました。函館だけでなく、もう1カ所、足を延ばして北海道の魅力を満喫してくださいというものですが、反応も良く、いい結果が出ると思います。

  交通計画の専門家として新幹線に関わる研究をしてきました。波及効果について、日本政策投資銀行の試算では、函館開業時で年136億円、札幌延伸時は道庁が試算していて年900億円。これは136億円、900億円が北海道中を回るということで、遠いところにも間接的に効果が表れることになります。

 函館で観光客が増えれば、函館のホテルがもうかるだけでなく、おいしい食事を提供するために道東や道北からも農産物、海産物が運ばれることになる。こういう形で、北海道全体に経済効果が波及するのです。

 一方、新幹線は国土軸をつくり、都市を線で結びます。東海道新幹線開業から50年たちますが、東京、名古屋、大阪の三大都市圏の結びつきが強くなりました。新幹線の効果は非常に大きかったと思います。北海道新幹線の開業で、北海道、東北、東京あるいは北関東との結びつきが強くなります。名古屋などと比べると都市の規模は小さくなりますが、伸びしろは大きいのではないでしょうか。

 ――JR北海道にとっても、新幹線開業は転機になります。当面の課題などについてお話しください。

 島田 北海道新幹線は、今までの新幹線にはない三つの課題に挑戦していくことになります。一つ目は、貨物列車と共用走行することです。開業する新青森―新函館北斗間149キロのうち、青函トンネルを含む真ん中の82キロ、約半分の区間が共用走行となります。新幹線は上下合わせて1日26本。貨物列車は2倍の約50本走ります。さまざまな設備の管理、ダイヤ調整などをしていかなければならない。そういう難しさがあることをご理解ください。

 二つ目は青函トンネルという長大トンネルを走行することです。さまざまな事故や自然災害を想定し、通常の在来線トンネルとは比べものにならないくらいの安全対策、避難設備を施しています。そういうことがないようにしなければならないのですが、設備だけではだめなので、避難誘導訓練もしていく考えです。

 三つ目は、積雪寒冷地という厳しい自然環境への備えをしなければならないということです。北海道の雪は軽くてすぐに飛んでいきますが、気温が相当下がるので、上越新幹線のように水で溶かす方式はなじみません。そこで、高架橋の線路の走る部分を、多少の積雪なら問題ない程度にかさ上げしました。青森県側の一部では、(線路を敷設する面を網状にして)雪がそのまま下に落ちる構造にしています。線路のポイント部には大がかりなシェルターをかぶせるなど、万全の用意をしています。

■旅行需要の喚起へ工夫 島田氏

■想定外の所にも観光客 高橋氏

 ――新幹線をJRの経営基盤強化につなげ、道内経済の活性化に役立てるには何が重要になりますか。

 島田 一つは東北との交流拡大です。現実問題として、東京から新函館北斗まで新幹線が走ると、仙台まででビジネス客を中心とした、かなりの数のお客さまが降りてしまいます。盛岡でも降りてしまいます。新青森―新函館北斗間はビジネス流動がそれほど期待できない区間で、ここをどう埋めるかが大きな課題です。札幌延伸を盛り上げる上での課題にもなります。

 仙台から新函館北斗の間で、旅行需要を喚起して乗っていただくということに知恵と工夫を凝らさなければならない。新たな観光ルートの創出も必要です。また、函館の人たちにとっては、札幌に行くよりも仙台に行く方が近くなります。それを逆手に取れば新たな需要を生み出せるのではないでしょうか。コンサートや野球観戦で仙台に行くのは、札幌に行くのと同じ感覚になると思います。

 二つ目は、(新幹線から乗り継ぐ)2次交通の整備です。道内各地へのアクセスだけでなく、函館市内をどのように観光するかという時に、土地に不案内でも便利に乗れる周遊バスがあり、きちんと周知されているかも重要です。この点では九州新幹線鹿児島中央駅で観光関係者の方々が工夫してやっている。三つ目はインバウンド(外国人旅行者)対策。案内情報をどうするか、大きな荷物を抱えているお客さまのための設備をどうするか、使いやすい外国人向けの商品をどうするか、そうした準備が必要だと思っています。

 ――新幹線開業で道内観光業界にどのような影響が出ると予想されますか。受け入れる道民は、どうすればいいのでしょう。

 高橋 間違いなく人は来ます。あえて辛口に言いますが、北海道の人は観光客を遠巻きに見る癖がついていると思います。目の前にいる観光客にもう一度、来てもらうには、優しく接するとか手を振るとかが大事です。京都では、朝、家の前を竹ぼうきで掃きましょうという運動をやった。通りかかった観光客がそれを見て「京都はみやびだな」と感じる。そこで京都の皆さんは「どちらからいらっしゃったのですか」と声をかけるのです。

 もう一つ辛口で恐縮ですが、今どき観光地で演歌を大音響でかけているのは北海道くらいです。道内観光がこれまでのイメージ、価値観のままずっと来ているような気がしています。新幹線開業を機に、初めて北海道に来る人は事前に勉強もして、自分なりの北海道のイメージを膨らませます。何を求めているか、もう一段高いところを考えなければなりません。間違いなく、皆さんの想像をはるかに超えるペースで、想像をしないような場所にまで多くの観光客が来ます。その備えをぜひお願いします。

■道南以外でも誘致必要 高向氏

■道内交通網整備さらに 岸氏

■ちょい乗り、需要開拓を 中野氏

 ――新幹線効果をどう全道に広げていきますか。

 高向 函館以外のまちも観光客の誘致を一生懸命やってほしいし、われわれもそれを応援したい。新函館北斗駅前は、まだ店があまりありませんが、開業の時にはとりあえずのプレハブを建てて、そこで土産物を売る予定になっています。そこでは道南だけでなく道内全体のものを売る予定です。必ず全道にいい効果が出ると思います。

  道東や道北に東北、北関東からどういう経路で来ているかを考えると、直行便の飛んでいないところは新千歳空港で乗り継いで釧路空港、女満別空港に行くパターンが多いと思います。道庁がモニター調査をやっていますが、新幹線が開業し、函館からの航空路線ができれば、函館経由という選択肢もできます。

 生かすも殺すも使い方次第ですが、選択肢が増えるのは重要です。高速道路があるから鉄道はいらないという話ではなく、人口は減少していても鉄道や高速道路、航空路線といった交通ネットワークを完成させる必要があります。

 中野 大阪の旅行会社に聞いたのですが、北陸新幹線が開業してから、(大阪と金沢を結ぶ)特急「サンダーバード」が人気になっているそうです。「ちょい乗り新幹線」という考え方で、金沢―富山間の30分程度の新幹線乗車を組み込んだ商品をつくったら飛ぶように売れ、その結果、大阪―金沢間の特急も満席になった。その発想をわれわれも使うべきだと思います。

 例えば青森空港に入って新青森―新函館北斗間の1時間だけ新幹線に乗ってもらうとか。仙台からでもできるでしょう。仙台空港は全国各地と路線がつながっており、その辺もきちんとやらなければなりません。

 それと、フランスに「ミシュラン・グリーンガイド・ジャポン」という日本の観光名所を星の数で評価した本があり、2011年の第2版で函館が紹介され、たくさんの星をいただきました。それをきっかけに函館は欧米への発信に力を入れていますが、フランスの旅行会社が本州より西しかない、北海道が載っていない地図を使っていて驚きました。もっと欧米の旅行会社に北海道ブランドを売っていかなければならないと思っています。

■開業後もキャンペーン 島田氏

■利用増「値ごろ感」必要 岸氏

 ――東京―新函館北斗間は、指定席利用で2万2690円になります。

 島田 適切な価格施策と需要喚起策をやらなければいけないと考えています。開業ブームが去った後も、私たちは新幹線効果を定着させる取り組みをしていかなければなりません。来年7月~9月に、函館と青森のデスティネーションキャンペーン(JR各社と自治体などによる特定地域の大型観光キャンペーン)を計画しています。津軽海峡を挟んで、青森県と函館、北海道全体が一緒になって全国に情報発信します。

  「値ごろ感」という言葉があります。02年の東北新幹線八戸開業の際に調査したのですが、函館から東京まで、新幹線でいくらなら安いか―と聞くと、ビジネスならだいたい1万9千円、観光なら1万6千円で「値ごろ感」を持っていた。10年以上前ですが、今も変わらないとみています。

 2万2690円は定価です。経済効果を高めるには利用者を増やさなければなりません。多くの人に北海道に来てもらい、北海道の人も旅行に出かけることが必要です。それを考えた時、こうした「値ごろ感」を島田社長、高橋部長には頭の片隅に入れておいていただけると幸いです。北海道新幹線は(東海道新幹線などと違って)建設費の3分の1は地元が負担しています。3分の1は道民のお金で造っている。道民の利用しやすい環境づくりも重要ではないでしょうか。

 高向 北海道新幹線の開業で、特に函館周辺は人手不足になると思います。その際にホテルの宿泊料を引き上げてください。高くなっても、皆払いますから。上げた分、従業員の報酬も上げてほしい。そうすればいい人材が集まり、おもてなしにもつながります。人手不足対策で宿泊料を引き上げ、それを賃金引き上げに結びつけようではありませんか、というのが経済人としての私の結論です。

<基調講演>JR東日本鉄道事業本部 営業部担当部長 高橋敦司氏

 北海道新幹線の開業はもうすぐです。あっという間に新幹線が北海道に乗り入れてきます。開業するだけでも世の中の何かを「変える」と確信していますが、これから大事になるのは地元の熱意と準備。それによって「変わり方」が違ってきます。道民の皆さんがそれぞれの立場で北海道新幹線をどう迎えるのか。その思いが足りないと、日本中でこれまで開業してきた新幹線に比べて盛り上がりは欠けてしまうでしょう。

 新幹線が走れば、さまざまなものが変わります。時間もその一つ。現在5時間半くらいかかっている東京―函館間が、国の試算では新函館北斗駅までですが、4時間10分程度に短縮されます。仮に今、東京駅を午前7時36分に出発する「はやぶさ」がそのまま新函館北斗駅まで乗り入れるなら、朝に東京を出れば、昼には函館朝市で昼食を食べることもできる。でも、「早くなる」ことだけが新幹線の価値でしょうか。

 今年3月に開業した北陸新幹線の乗車率は非常に好調ですが、実は新幹線と関係のない大阪から北陸に向かう在来線特急「サンダーバード」の利用も6%増えました。観光客は私たちの想定を超えた動き方をします。北陸新幹線の開業後に新潟県の直江津港から佐渡島に向かうフェリー航路ができ、佐渡島を訪れる観光客が増えました。岐阜県、福井県など北陸新幹線の通っていない場所にも、観光客が押し寄せています。

 北海道新幹線の開業後も同じ現象が起きるはずです。新幹線が開業すると、観光客の「地域のとらえ方」が広くなるんです。関東や東北に住む人が北海道に行ってみようと思い、北海道のどこに何があるのかを考える。新函館北斗駅からその先の稚内や網走に行くにはどうすればいいか―と考えるくらい広くなる。距離感は関係ありません。だからこそ、新幹線の駅から遠く離れた地域の人も、きちんと迎える準備ができるかが重要になります。

 北海道は観光地としてメジャーだからこそ、「関係ない」と思ってしまう人が多いと感じます。東北新幹線の新青森開業の際には、青森県五所川原市で住民がまちのあちこちにポスターを張り、開業の機運を盛り上げました。宮城県で観光キャンペーンを行った時も、地元高の写真部の生徒たちが桜の木の下で観光客の写真を撮るなど、観光客をもてなそうと一生懸命に知恵を絞りました。地域を挙げて観光を考え、観光のために自分のできることをやる。これが新幹線効果を全道に波及させる一番の秘訣(ひけつ)です。

 人口減少で消費が落ちる分は、観光で埋めなくてはなりません。でも、観光客が増えても観光の担い手が少なくなれば、受け入れられなくなる。あと15年もすれば、新幹線は札幌までやってきて北海道は「新幹線時代」を迎えます。その時、今の子供たちが観光を担わなければなりません。子供たちが観光客と触れ合う機会をたくさんつくり、将来の職業選択の際に「観光の仕事もいいな」と思わせてほしいのです。

 新幹線は地域の魅力を掘り起こし、磨き上げ、発信する絶好のきっかけです。それを生かすための体制づくりをしっかり進めてほしいと思います。