修学旅行で道内を訪れ、アイヌ民族の楽器「ムックリ」の製作を体験する仙台の中学生ら。北海道新幹線開業でこうした光景が増えることが期待されている=5月、函館市内

東北から大勢の修学旅行生を呼び込もうと、JR北海道の担当者が新幹線を使った旅の魅力などをアピールした=10月、仙台市内

 修学旅行に北海道新幹線を使ってみませんか―。来年3月の新幹線開業を見据え、北海道や東北で修学旅行を誘致する動きが活発化している。新幹線による時間短縮効果で従来よりも行動範囲が広がることをアピールし、今後増加が見込まれる北海道―東北間の人的な交流を修学旅行にも波及させる狙いだ。北海道側は今は少ない東北からの修学旅行生の獲得を目指し、東北側も東日本大震災で減少した修学旅行の需要回復に期待をかける。

■「時短」を強調

 「北海道は『遠くて値段が高い』というイメージは、北海道新幹線で変わります」。10月22日、仙台市内のホテルで、居並ぶ地元の中学・高校の先生や旅行業者ら約30人を前に、JR北海道の営業担当者がこう力説した。

 会合はその名も「北海道新幹線で行く修学旅行説明会」。来春、津軽海峡をまたいで開業する北海道新幹線を使った「東北発・北海道行き」の修学旅行を、東北の関係者に提案しようと、JRと北海道観光振興機構が昨年から始めた。

 新幹線開業で仙台―新函館北斗間は現在より約1時間短い約2時間半で結ばれる。説明会で、JRは「東京―仙台はやまびこ号で約2時間。東京駅から見学地へのアクセスを考えれば、北海道は決して遠くない」とアピールした。

 見どころが分散し、バスなどの移動距離が長い道内での修学旅行は、仙台などの学校にとって費用面でも割高感があったが、それも首都圏の宿泊料が外国人客の急増で上昇傾向にあることで薄らいでいる。渡島管内木古内町など道南の自治体や観光振興機構が歴史や文化、自然体験をテーマにした学習プランを説明する口調にも力がこもった。

■「空白地帯」に

 道内を訪れる修学旅行生は、近年では記録が残る2006年の22万人をピークに減少傾向にあり、ここ数年は20万人を割り込む。少子化に加え、航空機材の小型化などで道外から大勢の修学旅行生を一度に運ぶのが難しくなったことも背景にある。中でも東北からは、青森県などの小学校が道南を訪れるほかは「数えるほどの学校しか来ない」(同機構)という「空白地帯」になっているのが実情だ。

 同機構は12月に大阪や東京でも誘致活動を予定するなど、これまで来ていた学校をつなぎとめた上で、東北の学校を呼び込む両面作戦で減少傾向に歯止めをかけたい考えだ。

 函館市は仙台での説明会にとどまらず、独自の「営業活動」を展開する。昨秋にはホテルなどとも連携し、仙台の中学校を1校ずつ飛び込みで訪問した。その過程で、行き先を変えるだけのメリットを提案する必要性を強く感じたという。函館市観光部の担当者は「修学旅行生は将来、観光客として再訪してくれる存在。粘り強く誘致を続けたい」と話している。

■数百人は魅力

 JR北海道が修学旅行の取り込みに躍起になるのにもわけがある。大勢のビジネスマンが使う東海道新幹線などに比べ、新青森―新函館北斗間はビジネス需要が期待しづらく、一度に数百人規模の需要を生む修学旅行が欠かせないためだ。

 JR東日本がまとめた昨年度の東北新幹線の平均通過人員(1日1キロあたりの利用者数)は全線平均(東京―新青森間)で5万8080人。区間別では福島―仙台間は6万5048人なのに対し、仙台―一ノ関(岩手県)間は3万9898人と4割減る。さらに盛岡―八戸(青森県)間は1万5251人、八戸―新青森間は1万28人と、北上するごとに減っていく。

 このため、JR北海道も「あらゆる手段を使って、お客さんを乗せる知恵や工夫が必要」(島田修社長)との認識で、今後打ち出す修学旅行向けの割引運賃などで、多くの学校を引き寄せたい考えだ。道内での修学旅行は5~6月や9~10月に実施されることが多く、観光の繁忙期ではない時期に座席を埋めてくれることへの期待も大きい。

 ただ、旅行業関係者からは新幹線に接続する特急など「道内の2次交通の充実が不可欠」との声も出ており、動向が注目される。

■「震災」学習素材に 東北も躍起

 9月上旬、東日本大震災で被災した宮城県沿岸部を、近畿日本ツーリスト北海道(札幌)の修学旅行担当者が、東北観光推進機構(仙台)の担当者と回っていた。南三陸町で大津波の痕跡などを視察し、名取市では震災体験を伝える民間団体の取り組みを聞いた。同社は「多くの学習素材が見つかった。今後、修学旅行のテーマとして提示していきたい」と評価した。

 同機構は4年前から、震災の体験や教訓を子供らに伝える「震災学習」を修学旅行のテーマにしてもらおうと、全国の旅行会社を招いている。今回は北海道新幹線開業を見据え、初めて道内の旅行会社を呼んだ。

 震災は東北での修学旅行に打撃となった。多くの道内校を受け入れてきた岩手県の場合、2010年度に受け入れた道内中学校は延べ1039校、計7万8742人だったが、震災直後の11年度には12校、計219人に激減した。その後回復基調にあるものの、14年度は674校、計5万581人と、10年度の6割強にとどまる。

 「お得意様」だった道内校に再び目を向けてもらおうと、岩手県観光協会は地元自治体と「後世に語り継ぐ震災学習」に取り組む。津波被害に遭った三陸鉄道(岩手県宮古市)の貸し切り列車で沿岸部を見ながら、防災を学ぶプログラムなどを用意した。同協会は「新幹線でアクセス時間が短くなり、行動範囲が広がる。被災地と世界文化遺産の中尊寺金色堂(同平泉町)や橋野鉄鉱山(同釜石市)などを組み合わせたコースを提案したい」と話す。

 宮城県も13年度から、修学旅行向けに被災地でのボランティア活動の情報などを発信する「みやぎ教育旅行等コーディネート支援センター」を設置した。来春以降、宮城県までの所要時間が短くなる道内の学校からの問い合わせも増えているという。

 東北観光推進機構の紺野純一専務理事は「北海道新幹線で東北と北海道の交流は確実に活発になる。今後数年間は、北海道で重点的にプロモーションを展開していく」と意気込む。

■東北→道内、中学の1% 高校はほぼ行き来なし

 北海道や東北の学校は、どこにでかけているのか。全国修学旅行研究協会(東京)がまとめた2013年度の公立校の修学旅行実施状況調査によると、北海道では中学校が東北、高校は近畿がそれぞれ最も多かった。東北では中学校が関東、高校は近畿が多かった。

 道内の中学校は東北以外では道内や関東が多かったが、3~4日の旅程が多いため、移動に時間がかかる近畿以西や沖縄はほとんどなかった。高校は近畿と関東で全体の8割を占めた。

 北海道を行き先に選んだ道外の学校は中学校は43校と少ないが、高校は543校と高校全体の12%を占めた。高校を地域別で見ると、兵庫県や大阪府を中心とした近畿が最多で、関東や中国、四国からも多い。

 一方、北海道―東北間でみると、北海道から東北を訪れた中学校は全体の4割弱を占めたのに対し、東北から北海道に来た中学校はわずか1%。高校では双方の行き来がほとんどなかった。修学旅行は実施の約2年前に行程が決まるとされ、同協会は「北海道で変化が表れるのは数年後になるのでは」としている。(経済部 鈴木雄二)