イタリア中部のアマトリーチェで昨年8月の大地震後、避難所に設営された住居用のテント群(榛沢さん提供)

昨年の熊本地震の際に益城町の避難所で使用された段ボールベッド(「Jパックス」提供)

「段ボールは防寒にも役立つ」と話す水谷社長

 日本の避難所は、被災者が長期間過ごすのに適した環境だろうか。医療関係者などの間からは、そんな疑問の声が聞かれる。1年前の熊本地震では、避難中にエコノミークラス症候群(静脈血栓塞栓(そくせん)症)で亡くなるといった震災関連死が170人に上った。現状への反省から、避難所に段ボール製の簡易ベッドを導入するなど、環境改善に向けた動きも出ている。

■日本は管理優先、海外と格差 避難所・避難生活学会 榛沢会長

 「日本の避難所は極めてプアー(貧弱)です」

 こう主張するのは、新潟大呼吸循環外科講師の榛沢(はんざわ)和彦医師だ。2004年の中越地震で避難中に肺や脚の静脈に血栓ができるエコノミークラス症候群の発症者が多かったことから、被災地の避難所の実態を調べ始めた。一昨年には同様の関心を持つ全国の防災学者や医療関係者らと「避難所・避難生活学会」を設立。会長を務めている。

 「体育館に毛布や布団を敷いて雑魚寝」という日本の一般的なスタイルは、どこが問題なのか。

 榛沢さんは「最低限の人権さえ尊重されていない。世界的に見れば非常識な状態」と手厳しい。「雑魚寝では、周囲の音が気になって眠れない。プライバシーがないから、ストレスもたまる。疲れがたまって無力感が強まると、人間も動物も動かなくなる。これでは、ますます健康に良くない」

 布団の上で食事をとったり、寝ている人の近くを土足で歩くような間取りは、衛生面でも問題が多い。トイレやシャワーの不足、仮設トイレの不衛生さなども災害の度に指摘される。

 榛沢さんは海外の災害視察も続けており、昨年はカナダやイタリアで山火事や地震の被災地を訪ねた。どの国の避難所も、被災者の住居には多数のテントを用意し、簡易ベッドを配備。一つのテントを1~2家族で使い、一定のプライバシーが保てるように配慮していた。大型テントの食堂も開設。現地で調理して被災者たちに温かい食事を提供するのが当たり前になっていたという。

 「日本では、避難所の食事はおにぎりや弁当ばかりですが、作りたての温かい食事を食べられれば元気も出ます。食べる空間と寝る空間を分けることも大切。日本でも、せめて、食事をする場所と寝る場所は別々に設けるほうがいい」

 日本の場合、避難所運営が「管理優先」で、「被災者優先になっていないのが一番の問題」と榛沢さん。「これだけ災害が多い国なのだから、もっと備えを充実させ、運営体制も改善してほしい」と訴える。

■段ボールベッド 血栓防止も期待

 「避難所・避難生活学会」が提案している避難所の環境改善策の一つが、簡易ベッドの導入だ。日本では災害時に欧米のように簡易ベッドを大量確保することは難しいため、現実的な対策として、より安価な「段ボールベッド」の導入を行政などに要望している。

 避難生活で車に寝泊まりする車中泊が続くとエコノミークラス症候群の発症原因となることが知られているが、同学会のシンポジウムでは、体育館などの堅い床で寝る生活が長く続いても発症が増える傾向が報告されている。

 一昨年、大規模な水害に見舞われた茨城・常総市で避難所の利用者に行った脚の血栓の検診では、段ボールベッドの使用率が低い避難所ほど、血栓が見つかる人の割合が高かった。同学会の医療関係者らは、段ボールベッドを使えば床に寝るより温かくて寝やすく、病気や災害関連死の予防にもつながると期待する。

 段ボールベッドは大阪の段ボール製造業者「Jパックス」が考案。専用の段ボール箱を組み合わせてベッドとして使う。災害時に短時間で量産でき、備蓄は不要。全国段ボール工業組合連合会(全段連)などの業界団体や個別メーカーと自治体が防災協定を結び、災害時に必要な個数を被災地に提供してもらう方式が全国的に広がっている。

 全段連などの調べでは、これまでに19道府県と仙台、新潟、横浜など政令指定都市9市を含む全国の250以上の市町村が協定を締結。道内でも旭川、苫小牧、千歳、恵庭、北広島、芦別などの各市が地元のメーカーや工場と協定を結んでおり、根室管内羅臼町も締結の準備を進めている。

 昨年の台風で被災した十勝管内新得町などの現地調査では、段ボールベッドが「大変役立った」と評価された。

 道は今後の災害時に避難所への段ボールベッドの導入を増やす方針で、3月に東日本段ボール工業組合と初の防災協定を締結。今年秋に札幌市と合同で行う大規模な防災訓練でも段ボールベッドを実際に設営する演習を計画している。

 避難所のプライバシー対策としては、今年初めて室内用テントを備蓄。災害見舞金を活用して約500世帯分を用意した。今後、災害時に避難所でテントを必要とする家族があれば提供していく予定。道総務部危機対策課の大西章文主幹は「避難所の居住空間に間仕切りを設けるなど、よりきめ細かな配慮も考えていきたい」と話している。

■現場で有効に使える仕組み必要 段ボールベッド考案・水谷さん

 日本式の災害用品として普及してきた段ボールベッド。最初に考案したのは大阪・八尾市の段ボール会社「Jパックス」だ。町工場の中小メーカーだが、東日本大震災の被災地支援に入った水谷嘉浩社長(46)が避難所の寒さや雑魚寝生活を何とか改善できないかと考え、自前で作れる簡易ベッドを思いついた。

 「せっかく災害から命が助かったのに、避難所で亡くなる方がいる。それっておかしいじゃないかと思ったんです」

 早速3千床を試作し、無償で被災地に提供。ところが思わぬ“障害”に直面した。「前例がない」「特定の人にだけ提供できない」などと受け取りを拒否されるケースが続出。その後、全国段ボール工業組合連合会などに協力してもらい、自治体とメーカーが防災協定を結んで災害時に支援活動としてベッドを安価で迅速に提供する方式を確立した。

 ベッドのサイズや固定する仕組みも改良を重ね、現在は高さ35センチの12個の箱を並べるタイプに統一。製造図面も公開している。昨年の熊本地震では業界全体で益城町などに5300床を搬入。「使ってくれた避難所では体調不良や緊急搬送が減ったそうです」と表情をほころばせる。

 一方で、被災地にベッドを届けても使い方が分からなかったり、避難所の運営者に指示が伝わらず、倉庫に積まれたままで終わったケースもあるそう。「防災協定を結ぶだけではダメ。実際に現場で有効に使ってもらえるような仕組みをつくっていかないと」と改善に知恵を絞っている。(編集委員・森川潔)