「オーダーメードの避難カルテ」を前に、手作りの避難袋を持つ須崎高の防災プロジェクトチームのメンバー

津田中の防災学習倶楽部が自治会と一緒に作った「津波避難支援マップ」の前に立つ新田さん(右)と佐藤さん

抜き打ちで行われる津乃峰小の避難訓練。6年生が1年生の手を引いて高台に逃げる(津乃峰小提供)

 東日本大震災から間もなく6年。津波に対する防災教育が、全国的に活発になっている。南海トラフ巨大地震による大津波が想定される太平洋沿岸地域は特に意識が高い。防災教育に熱心に取り組む学校・団体を表彰する「ぼうさい甲子園」(兵庫県など主催)で最高賞のグランプリや大賞に輝いた徳島県と高知県の小中高校3校を訪ね、津波に対する独自の取り組みを聞いた。(東京報道 岩本茂之)

■16年度グランプリ 須崎高(高知県須崎市) 高齢者個別に「カルテ」

 海からの津波と、川を逆上する津波による被害が予想される須崎高。地域の防災リーダーになろうと、生徒がボランティアで「防災プロジェクトチーム」(約40人)をつくっている。

 画期的なのが、地域の高齢者一人一人に合った「オーダーメードの避難カルテ」づくりだ。きっかけは聞き取り調査で出会った高齢者の「避難しても助からない」という言葉だった。リーダーで3年の竹林俊輔さんらは「地域の人たちを誰も死なせない。須崎の奇跡を起こそう」と誓った。

 昨年8月、高校のある須崎市岡本地区の独居や夫婦2人世帯の高齢者宅約40戸を戸別訪問。高齢者と一緒に避難場所まで歩き、所要時間を計測し、手書きの避難マップを作った。

 避難路は最低2ルートを考え、古い住宅、ひび割れた塀、電信柱といった危険箇所を記入した。防災グッズを入れた避難袋を用意していない高齢者が多いため、必要なグッズも書き込んだ。カラフルな色使いで温かみに満ちた一人一人のカルテができあがった。

 さらに、ボランティアで高齢者宅の家具を固定する作業を行い、避難場所への登り口計5カ所に手作りの大きな掲示板を取り付けた。

 校外での啓発活動にも熱心に取り組む。変身もののキャラクター「ソッセンジャー」を考案し、イベントに出演して地震や津波対策をアピール。市内のケーブルテレビ用のCM番組を制作し、市民に防災の重要性を訴えている。

 中学校との合同避難訓練では、全員で災害時に選択を迫られる難問を考える。例えば「津波が来ているのに、倒壊した建物から助けを求める叫び声が聞こえる。どうしますか」といった具合だ。平時から意識を高めてもらうためだ。

 「救命活動は一分一秒を争う。自衛隊や警察などの救援を待っている余裕はない」(防災担当教諭)。16年度は生徒約100人が消防署の救命講習を受講し、市の総合防災訓練に参加した。被災者の応急手当てができる生徒も着実に増えている。

 ・生徒数 261人

 ・立地 標高約4メートル、海から約700メートル、川から約80メートル

 ・津波の想定(到達時間) 最大7~10メートル(20~30分)

 ・避難場所 10分以内に約100メートル離れた高台(標高約20メートル)に逃げ、20分以内に斎場(同約80メートル)を目指す

■10、11年度グランプリ 津田中(徳島市) 避難路づくり 地域密着

 ぼうさい甲子園10年連続入賞の“強豪”津田中。2005年度から地域の自主防災組織と一緒に活動に取り組んでおり、14年度からは生徒有志でつくる「防災学習倶楽部(くらぶ)」(約50人)がその中心を担っている。

 目玉は毎年夏休みに行う住民への戸別訪問だ。自主防災組織のメンバーとアンケート用紙を持って、各戸ごとに津波の規模や避難袋の内容などを答えてもらい、防災意識を高めている。15年度からは各戸ごとに予想される津波の高さを書いた赤い表示シール、2メートルの津波で流れるとされる木造家屋を示す黄色い表示シールを家の壁に貼る活動を行っている。

 学校のある津田・新浜地区は道幅の狭い住宅密集地。南海トラフ巨大地震では多くが倒壊すると想定されるだけに、道なき道を避難場所まで逃げられるよう駐車場や公園など空きスペースを組み合わせた避難路づくりに取り組んでいる。スタジオジブリの映画「平成狸合戦ぽんぽこ」のモチーフとなった伝説「阿波狸合戦」に登場するタヌキ「六右衛門(ろくえもん)」の住まいが同地区にあり、住民に親しまれていることから避難路は「ろくえもんロード」と名付けられた。

 東北の復興が進まない姿に危機感を持ち、災害後の復興プランをあらかじめ準備しておく「事前復興街づくり」も検討している。同地区の高台に新たにまちを築くため、道路拡幅、高齢者の集えるセンターの建設などに必要な予算を算出し、その青写真を地域に提案する方針だ。

 このほか、他校生らとともに体育館の床を段ボールで仕切った避難所体験を行ったり、徳島大学が開発した津波避難の疑似体験ソフトを使ったりして防災意識を高めている。

 倶楽部の活動はミニコミ誌にまとめ、コンビニなど約80事業所に配って啓発に努めている。担当教諭の佐藤康徳さんは「若くてエネルギッシュな生徒と、地域の人たちがつながって、防災意識が大きなうねりになって高まっている」と話す。倶楽部のメンバーで3年の新田悠貴さんは「万が一、地震が起きても地域の人たちと信頼関係が築けているので活動しやすい」と自信を深めている。

・生徒数 352人

・立地 標高約1・1メートル、海から約500メートル

・津波の想定(到達時間) 最大5・2メートル(約40分)

・避難場所 35分以内に隣接する津田小の3階(高さ約13メートル)や裏山(標高約26メートル)に逃げる

■16年度大賞 津乃峰小(徳島県阿南市) 抜き打ちで訓練を徹底

 津乃峰小の特長は、徹底した避難訓練と全教科にまたがる防災教育だ。

 避難訓練の回数は年15回。緊急地震速報の警報音や、ゴーッという地震音を使うので臨場感たっぷりだ。

 訓練を始めたころ、津波の到達予想は約20分なのに、1年生が単独で逃げると避難場所まで約30分かかった。困っていると、6年生が「先生、私らが連れていく」と言って、1年生の手を取った。15分以内で無事クリア。以来、6年生が1年生の手を引いて逃げる。

 新学期最初の訓練は事前に知らせるが、2回目以降は大半が抜き打ち。授業中はもちろん、休み時間、掃除の時間、登下校時…。校長しか知らない抜き打ち訓練もあって、教職員も気が抜けない。

 学校より海側に住む児童は高台に逃げる時間がなく、登下校時の訓練では、4階建ての防災センターの屋上(約13メートル)に逃げる。

 さらに同小は、高台に大型バス十数台の車庫を持つバス会社と協定を締結。災害時はバスを避難所にするという全国初の試みを始め、夏と冬には親子で宿泊体験も行っている。電源が途絶えても冷暖房の効いたバスで過ごせる。昨年12月の訓練では炊き出しも行い、20食分の防災食を雑炊にして倍増させる工夫をした。

 一方、全教科で防災を関連付けた授業を行っている。社会や総合学習のフィールドワークでは校区9地区ごとの防災マップを作り、全700世帯に配布。算数では防災グッズを並べ、重さ2キロにそろえる学習をする。理科は地層、道徳は避難所生活などをテーマに学ぶ。防災学習室を設け、段ボールを使った簡易トイレや簡易ベッド作りも行う。子どもたちが保育所に出掛け、絵や劇で避難訓練の重要性を伝えている。

 「普段していないことは、いざとなってもできない。訓練回数を重ねて経験値が上がり、冷静に行動できるようになった」。担当教諭の山本栄さんは手応えを語る。さらに「防災教育を通して命を守ることの大切さを学び、自分の将来を考えながら学習するようになった。学力向上にもつながっている」と相乗効果を実感している。

・児童数 150人

・立地 標高約1・2メートル、海から約200メートル

・津波の想定(到達時間) 5メートル超(約20分)

・避難場所 15分以内に運動場から約600メートル離れた防災公園(標高約10メートル)に逃げ、バス会社車庫(同約20メートル)に移動してバスを避難所にする