参加者たちに「もっと口を大きく開けてみましょう」と助言する田嶋さん

「寿限無」を音読する参加者たち

札医大の下濱俊教授

 文章を声に出して読む「音読」。簡単なことのようで実践するとなると奥が深い。関連図書も多く出版され、注目されているという。札幌市内で音読を教える講師は「大きな声ではっきりと声が出るようになると、会話に自信が持て生活にも張りが出る」と話す。また、神経内科学の専門家は音読による脳の活性化を指摘している。

 「あ、え、い、う、え、お、あ、お」。4月上旬、札幌市内で開かれた「音読による脳トレ教室」では6人の参加者たちの大きな声が響いていた。70代が中心。テレビ局などでアナウンサーの経験もある田嶋扶二子さん=音読集団郷音の会主宰=が8年前、「音読を通して声を出すことの楽しさを伝えたい」と講座を開いた。

 「音読に大切なのは正しい発声です」と田嶋さん。90分の講座のうち、30分は腹式呼吸や正しい日本語の発音練習に充てられる。その後、童話や小説などの文章を音読。この日は古典落語の名作「寿限無(じゅげむ)」を読んだ。「もっとメリハリをつけて読んでみて」などの田嶋さんのアドバイスを聞く参加者たちのいきいきとした目が印象的だった。

 7年前に病気で顔面まひを患い、5年ほど前から滑舌を改善するため通っている70代の女性は「最初はなかなかうまく話せなかったけど、今では『うるさい』って言われないか心配なくらい大きな声で話すようになった」と笑う。パーキンソン病だという84歳の男性は「生きている間は人と話したい。ここで声を出したり人と話すと元気がもらえるんだ」と力強く語った。

 田嶋さんは「電子メールのやりとりと違い、『自分の声で話せる』ことで、気持ちが若くなり表情が明るくなるんです」と説く。「音読による脳トレ教室」は札幌市内で月に2回開催。入会費千円、会費は1カ月4千円(毎年4月に資料費として別途千円)。申し込み、問い合わせは田嶋さん(電)090・5951・1248まで。

■物事への意欲に関わる機能を刺激 認知症予防に効果

 では実際、音読は人体にどんな効果があるのか。

 札医大の下濱俊教授(神経内科学)は「運動や簡単な計算などのように、脳を活性化させる『脳活法』の一つで、認知症の非薬物療法として取り入れている医療機関も多い」と話す。脳活は、認知症の予防や発症の遅延にも役立つという。

 活性化するのは、人の大脳皮質のおよそ30%を占める「前頭前野」だ。感情の抑制や物事への意欲、コミュニケーションなどに深く関わる部分で、アルツハイマー病が進行すると、この機能が低下していくという。下濱教授は「前頭前野は人間が社会生活を送る上で必要不可欠」と強調する。

 音読をする場合、簡単で楽しい文章を選ぶとよい。「難しいと、かえってストレスになり脳に悪い」(下濱教授)。誰かと一緒に読むなど「楽しい雰囲気」の中で行うことが大事だという。音読だけでなく、計算や運動と組み合わせるとより効果が上がる。例えば音読と計算を10分ずつ毎日繰り返すことなどが有効だ。

 厚生労働省は、2012年で462万人と推計した認知症高齢者数を、25年には約700万人、65歳以上の国民の約5人に1人に達すると見込んでいる。下濱教授は「認知症の発症を遅らせ脳の健康寿命を延ばすためには、予防として音読を含む脳活も有効と考えられる」と今後、認知症対策として「音読」の重要性が一層、増すとみている。(岩内江平)