<記事に登場する「ヨメーター」の使い方> 体調と気分に合わせ、四つのゾーンを設定したチェック表。冷蔵庫などに張って使う。体調が良くても気分が優れない時は右下のゾーンを選ぶなど、妻は自分の該当するゾーンにマグネットを張る。夫は帰宅後、ヨメーターを確認し、妻に話を聞く。画像はアイナロハのホームページ(http://www.ainaloha.com/)から無料ダウンロードできる。

 わたなべ・だいち 1980年、札幌市生まれ。札幌南高、明治大を卒業後、2007年に結婚。11年に自身が代表を務める企業「アイナロハ」を立ち上げ、年間千組以上の夫婦が参加する父親学級を全国各地で開催している。著書に「赤ちゃんがやってくる!」(KADOKAWA)など。3児の父。

夫婦関係などを率直に語る時間を設けているマドレボニータの産後ケア講座。永野間さん(左)が母親たちを優しく支える

 かわいい子どもが生まれ、幸せな時間―。そんな印象が強い産後だが、実は夫婦仲が悪化する時期でもあるという。私も出産後、夫の何げない言動にいら立った経験があるが、夫側にも言い分はあるだろう。出産を機にすれ違い始める「産後危機」はなぜ起きるのだろうか。

 産後のすれ違いに悩む夫婦が、コミュニケーションを円滑にするためにはどうすればよいのか。父親学級や、出産直後の母親向けなどのサービスを事業展開する企業「アイナロハ」(埼玉県所沢市)の代表を務める、渡辺大地さん(36)=札幌市出身=に聞いた。(貝沢貴子)

■お互いの思い 言い合って

 ――著書「産後が始まった!」(KADOKAWA)には自身が経験した産後のすれ違いが書かれています。

 「産後の女性の大変さに気づいたのは、第2子の妊娠が分かった時。第1子の出産の経験から産後の生活に不安を訴える妻に対し、当初は『こんなに良い父親がそばにいるのになぜ』と思っていました。話し合ううちに、私の行動と、妻の協力してほしいことの違いが見えてきました」

 ――具体的にどんな違いがありましたか。

 「当時は会社員で、朝早く家を出て終電で帰宅する毎日でした。少しでも子育てに携わろうと、帰宅すると寝ている子どもに『高い高い』をして遊んでいました。せっかく寝付いた子どもが起きてしまい、妻が困っているのに、私はそれが子どもと一生懸命遊ぶ父親だと考えていました」

 ――かつての渡辺さんのように、妻の思いを知らない夫は多いのでしょうか。

 「多いのではないでしょうか。育児雑誌などにはホルモンバランスの変化で産後の女性は精神的に不安定になると書かれていますが、私たち男性はまず、ホルモンバランスの変化自体が想像できません。夫婦がすれ違う背景には夫の無理解がありますが、夫が理解するのが大変なこともあるという点を、妻に知ってもらえるとうれしいです」

 ――良いコミュニケーションの方法はありますか。

 「テーマを設けて話し合う『夫婦会議』を勧めています。事前に決めるのは《1》日時と所要時間《2》テーブルの片付けなど会議を開くための準備をする『日直』《3》テーマ―の三つ。頻度は各家庭にお任せです。テーマは、保育園探しのような重要なものから、夏休みの過ごし方でも何でもいい。わが家は内容をノートに記して残しています」

 「あくまで会議なので、意見の相違があっても折衷案を出しやすい。夫婦会議によって私も、考えの違う者同士がまとまることで家族になるんだと気づきました。夫婦には、お互いがどう思っているか言い合える関係になってほしいです」

 ――家事や育児に協力的な「イクメン」を名乗る男性も増えてきました。

 「子育て中は家事と育児に当てはまらない、夫に想定しにくい業務が出てきます。発熱時の保育所のお迎えや、予防接種などの業務です。たいてい妻に負担がかかります。家事や育児だけでなく、これらの業務も共有しておかないと妻の負担感は減りません」

 「一方ですでに頑張っている夫ほど、今以上に家事や育児の時間を取らなくてはいけないと思っています。それよりもまずは妻の話をゆっくり聞いてほしい。妻が何に負担や不安を感じているのか聞けるのは、夫だけなんですよ」

 ――妻との会話のコツはありますか。

 「悩みを打ち明けられるとつい助言しようと思いがちですが、話だけ聞いてほしい女性もいる。私も、助言はいらないから相づちだけ打つようにと妻に頼まれたことがあります。そうすると、会話の中で妻に質問することが増え、会話が続くようになりました」

 「会話の糸口として、アイナロハのホームページから無料でダウンロードできるチェック表『ヨメーター』もお勧めです。妻が今、どんな体調と気分なのか一目で分かります。夫は子どもの様子だけを気にする傾向が強いですが、妻の様子も気にかけましょう」

 ――危機に陥った夫婦関係でも元に戻りますか。

 「私たち夫婦もかつて危機にありましたが、復活できました。産後のすれ違いは、それまで夫婦が向き合ってこなかったからこそ症状が出てくる風邪のようなもの。休養をとって風邪を治すように、夫婦もじっくり話し合う時間をつくってください」

■産後危機 すれ違いから 無理せず夫頼り/しっかり妻支え

 「以前はけんかなんてしなかったのに」。札幌市内に住む美咲さん(36)=仮名=はため息をつく。穏やかだった夫婦関係に変化が生じたのは、昨秋誕生した次男の妊娠中だ。

 長男の出産を経験し、妊娠中の生活や陣痛の大変さは身に染みていた。甘えたい盛りの長男の世話も、思うようにいかない。「夫に精神的に支えてほしい」と願ったが、夫は美咲さんが安心するような言葉はかけてくれなかった。結婚前は魅力的だった口数の少なさが、今回は歯がゆかった。

 子煩悩な夫に感謝する一方、美咲さんは夫婦関係の違和感を拭い切れていない。「家族が増えると、夫婦のあり方も変わってくる。もっとお互いの気持ちを分かり合いたい」と話す。

 東京の住宅情報会社が運営するオウチーノ総研が昨年8月、子育て中の男女計790人に行った調査では、出産後の配偶者への愛情について女性の回答で最も多かったのは「(愛情が)減った」で45・7%。一方、男性は「変わらずに多い」の47・8%が最多で、夫婦間の温度差が垣間見えた。

 こうした「産後危機」がテーマの講座を開く札幌の助産師佐藤千鶴さん(41)は「出産後すぐに、女性の体が回復すると勘違いしている夫は多い。妻が家事や育児を一身に背負うしかなく、夫との気持ちにズレが生じやすい」と指摘する。

 講座でまず伝えるのは、妊娠・出産で女性の体に起きる変化だ。妊娠中や産後はホルモンバランスが変わり、情緒不安定になりやすいという。出産で疲れた体を抱えながらも、赤ちゃんの世話に休みはない。

 だからこそ夫のサポートの必要性を強調する。家事や赤ちゃんの世話など夫にやってほしいことがある時は、妻側から事細かく手順を説明するのもカギだという。“満点”を求めず、「ありがとう」と伝えることが夫自身のやる気につながる。佐藤さんは「産後は体の調子を戻す上で大切な時期。妻は無理をせずに夫を頼り、夫はしっかり妻を支えてほしい」と話す。

 一方、妊娠・出産を機に夫との関係性をどう育んでいきたいか、妻自身が見つめ直す場もある。産後の女性を支援するNPO法人マドレボニータ(東京)の産後ケア講座。同法人の認定インストラクター永野間かおりさん(38)=札幌在住=はこれまで、網走や登別などで講座を開いてきた。

 産後ケア講座ではバランスボールで運動をした後、参加者同士が仕事や夫婦関係について思いを打ち明ける時間を設けている。夫婦が対等な関係だと示すため、永野間さんは講座内で夫を「パートナー」と呼ぶ。

 「私の夫はパートナーと言えるのかな」。3児の母である札幌市清田区の綾乃さん(34)=仮名=は受講を機に、そう考え始めた。家事や育児に携わってくれない夫にいら立っていたが、講座で夫婦関係を話すうちに「自分自身が夫とパートナーになろうとしていなかったことに気づいた」。

 綾乃さんは今、夫が育児に取り組みやすいよう、子どもそれぞれの性格や好みを伝えた上で世話を頼んでいる。入浴や遊びは、夫の方が子どもを上手に楽しませてくれるようになった。

 「産後のすれ違いはどの夫婦にも起こりうる。新たな関係を築けるチャンスと捉えて」と永野間さん。男児3人を育てる永野間さんも夫とのすれ違いを経験したが、話し合いを重ね克服したという。

 永野間さんは、夫とのすれ違いに悩む妻たちの背中を押す。「すれ違っても、夫婦で向き合って乗り越えればいい。そうすれば次に問題が起きても、夫婦で立ち向かえます」

 佐藤さんの産後危機を題材にした講座は24日に開催予定。詳細は佐藤さんのブログ(http://ameblo.jp/mw-pia-beauty/)へ。

 永野間さんの産後ケア講座は3月と4月、札幌や釧路で開催予定。詳細は永野間さんのブログ(http://ameblo.jp/knaganoma1224/)へ。

<編集後記>

 「写真、欲しいな」。第2子の出産直後で入院中、夜間に夫からよく届いたメールだ。体調が優れない中で何とか、生まれたばかりの子どもの写真を撮って送信。すると即座に「もう1枚送って」と返信が来る。いら立ちと疲れで、翌日からは角度や背景を変えた写真を撮りだめするようになった。

 先日、夫にこのことを話すと全く気づいておらず、笑い話になった。私が無理をする必要はなく、夫に状況を説明しておけば良かったのだと分かった。

 産後のすれ違いは、今後の人生で待ち受ける壁を乗り越えるための準備なのだろう。「そんなこともあったね」と笑って振り返られる夫婦でいたい。(貝沢)