市民向け講座で「コミュ障」をテーマに話してほしい、と依頼された。

 「コミュ障」とは「コミュニケーション障害」の略。うまく話せない、話してもわかってもらえない、という状況を指す。いまの若い人の中には、この「コミュ障」で悩んでいる人も少なくないそうだ。

 講師を引き受けたはよいが何を話そうか、と頭を悩ませた。そして、「コミュ障」から脱出するにはコミュニケーションについての考え方を変えること、という話をしようと決めた。

 私自身の経験を振り返っても、小学生のころは「おしゃべりしすぎるのは軽い人間ですよ」とよく注意されていた記憶がある。「必要なことだけを短く話せばよい」「自分のことを話しすぎるのは行儀が悪い」という考えがまだまだ一般的だったのだ。

 それが今はどうだろう。書店に行けば「雑談の仕方」といった本が並び、学生たちは「就職活動のためにも自分をもっとアピールしなさい」と教えられる。「おしゃべり」は「いけないこと」から「必要なこと」へと、すっかりその価値を変えたのだ。

 だから、「コミュ障」もその昔は「ひかえめですばらしい」「おくゆかしい」と言われたはずなのに、ここに来て「直したほうがよい」とみんなが思うようになっただけ、といえる。

 「昔はこれがほめられたのだ」と自分に言い聞かせ、あまり苦手意識を持ちすぎない。「私のような口数の少ない人間を、誠実だと評価してくれる人も必ずいるはず」と社会やまわりの人たちを信じる。そして、話すよりも笑顔ややさしい視線などの表情でアピール。これだけでもずいぶん気持ちがラクになるはずだ。

 本当は、「コミュ障」だなんて言われる人はいない。それが私の「脱『コミュ障』講座」の結論だ。(精神科医)