「奇蹟」の井戸は大窓越しに湯船から望める

泉質変わる「奇蹟の泉」

 これまで北海道内で900余の温泉を取材しデータを控えてきたが、この道東の銭湯の3枚の温泉分析書ほど不思議なものにはお目にかかった記憶がない。どれも同じ「池田清見温泉第1号井」のものだが、創業時1990年の泉質が「ナトリウム―塩化物強塩泉(弱アルカリ性高張性温泉)」であるのに、2009年の分析ではガラリと変わって「冷鉱泉(弱アルカリ性低張性冷鉱泉)」に、それが翌年には再び当初の泉質に戻っているのだ。ちなみに塩泉に「強」と付くのは濃い状態を表し、成分の薄い「冷鉱泉」や「単純泉」とはまるで逆だ。

 泉質の主成分だけでなく副成分も興味深い。冷鉱泉の時には1キログラム当たり1.8ミリグラムの腐植質を検出、いわゆる「モール温泉」だ。「その年の1月の朝、掃除後に湯を張ろうとしたら、緑がかった透明なはずの温泉が突然、濃茶色に…」と経営する杉山浩子さんは振り返る。そのたった1年半後の7月、モールの成分はこつぜんと消えた。泉質こそ昔と同じだが、今度はヨウ化物イオンがほぼ5倍、北海道トップクラスの1キログラム当たり27.7ミリグラムを含んでいた。「それが最近、また濃度が薄くなったかもと感じています。不思議でしょうがありません」

 泉質が劇的に変わる場合、普通は浅い地下水や付近の海水、深層の温水など別系統の湯水が「何かのハズミ」で混入するのが原因だ。だが当時は、井戸に手を加えることはもちろん地震や火山活動も無かった。泉下の創業者はこの町内唯一の温泉を「奇蹟(きせき)の泉」と名付けたそうだが、ある意味その通り。体を温める濃厚食塩泉、柔らかなモール温泉、殺菌力に定評のあるヨード温泉、さらに…と変化して湯客を楽しませてくれるとは、なんとも幸福な奇跡である。

 湯そのものに加えて風呂もいい。造りはシンプルだが、ゆったりした主浴槽は一部がベンチ式の座浴になっており、水圧による心臓負担が少ない。小ぶりの気泡湯もぬるめで、どちらも健康的な長湯が楽しめる。(旅行ジャーナリスト)

住所 十勝管内池田町清見ケ丘10
電話 015・572・3932
泉質 ナトリウム-塩化物強塩泉
日帰り入浴時間 午後2時~受け付け終了午後9時、閉館9時30分
日帰り入浴料 大人440円、小学生140円、3歳以上の未就学児70円、3歳未満無料
日帰り入浴定休日 火曜日
交通 道東自動車道・池田ICから車で約50分、JR池田駅から徒歩で約20分