気のおもむくまま夜更けの長風呂も目覚めの朝風呂も…客室露天風呂の醍醐味(だいごみ)だ

静けさ重視 和の造り

 ああ、朝だな…。温泉と上質の布団が誘った深い眠りのおかげで、目覚ましの助けも借りずうっすらまぶたが開いた、その時―。視線の先には、すだれ越しに広がるりんとした朝の森木立。日本画がこつぜんと現れたような景趣に、今度はスッキリとまなこが開いた。

 十勝岳連峰のふところ、シラカバやエゾマツなどの自然林がどの部屋からも見られるよう配置した、名に偽りなしの「森の旅亭」。山あいの自然な高低に沿って五つの棟をしつらえ、回廊で結んだ低層の宿は、山と森に溶け込んでいる。北海道の湯宿では数少ない切り妻屋根の和の構えは、九州・熊本出身のあるじが北と南の二つの土地への思いをつないだ「蝦夷(えぞ)数寄屋造り」。例えば廊下床材のシラカバ材は、温泉街への通い道「白樺街道」にちなむもので、軟らかな木質が足元に優しい。

 17の客室のうち12室には、この地を選ぶ決め手となった良質の温泉を掛け流す露天風呂も設けた。最もぜいたくな離れの5室には、通路の傍らに清流のように温泉水が流れる水路があり、食事や湯あみから戻る際には足元から立ち上る水音が部屋へと導いてくれる。

 端正なしつらえにほんのりとぬくもりを添えるのは、若いスタッフたちの手作りの装飾だ。お迎えの菓子に敷いた切り絵、通路の窓辺を飾る折り紙細工、季節のリース。接客ぶりも同様に、親しみ深く誠意に満ちている。

 晩餐(ばんさん)は富良野和牛、地元産の芋や野菜、旬の魚介などの素材を生かす北海道らしさに洗練の技を加えた和のコース。一見して奇をてらわぬ献立のひと皿、ひとわんが、下ごしらえや盛り付けに手間ひまを惜しまぬ仕事ぶり。うきうきと箸を運べば2時間が瞬く間に過ぎた。

 浴場も木と石とでしつらえた和のおもむき。凝った設備より静けさを重視した造りで、湯は掛け流し。こっくりとした草色の濁り湯が、朝まで続くぬくもりを与えてくれた。(旅行ジャーナリスト)

住所 上川管内美瑛町白金10522の1
電話 0166・68・1500
泉質 ナトリウム・マグネシウム・カルシウム-硫酸塩・塩化物泉
1泊2食料金 露天付き客室は大人2万2千円から、その他の客室は同1万6千円(いずれも税別)から、子供料金もあり
日帰り入浴時間 午前10時~受け付け終了午後2時
日帰り入浴料 大人800円、小学生400円、4歳以上の未就学児100円、3歳以下無料
日帰り入浴定休日 不定休
交通 JR美瑛駅から車で約30分