韓国・釜山の日本総領事館前に新たな慰安婦少女像が設置されたことを受け、日本政府は長嶺安政駐韓大使を一時帰国させるなどの対抗措置を決定した。

 ソウルの日本大使館前にある少女像を含め、日韓合意に沿い撤去へ努力することに韓国政府が消極的だという理由だ。日本政府の断固たる意思を示す狙いだろう。

 外交関係に関するウィーン条約では大使館、領事館の安寧、威厳を守る「特別の責務」があると定めている。韓国政府が少女像を放置したままでいいはずはない。

 ただ、問題の根本には日韓合意への反発が根強い韓国の国民感情がある。そこを解きほぐさない限り、解決にはつながらない。

 これを機に合意自体が揺らぎ、日韓関係が再び悪化することだけは避けなければならない。そのためにどう対応すべきか、両国政府が冷静に考える必要がある。

 日韓合意は日本が拠出した10億円を基にした元慰安婦への支援金支給が柱だ。昨年末時点で生存する元慰安婦の7割以上が支援金を申請し、順調に進んでいる。

 韓国政府には引き続き事業の意義を粘り強く説明してほしい。

 ただ、少女像の問題では、朴槿恵(パククネ)大統領が職務停止となっているいま、現実問題として強い対応は期待できない。

 そればかりか対抗措置は韓国世論の反日感情をさらに激化させる恐れがある。効果をどこまで考えての措置なのかは疑問が残る。

 一方、日本政府が10億円拠出により今後の合意の履行は全て韓国側に責任があるかのように捉えているとすれば、それは違う。

 韓国側は安倍晋三首相が合意の際に表明した「おわび」を、以前のアジア女性基金のように元慰安婦への手紙にすることを求めた。

 しかし首相は昨年10月の衆院予算委員会で、手紙は「合意の外だ」として「毛頭考えていない」と全面否定した。韓国国民に冷淡な印象を与えたのではないか。

 年末には稲田朋美防衛相がA級戦犯が合祀(ごうし)されている靖国神社に参拝した。首相の米ハワイ真珠湾での慰霊に同行し、帰国した直後のことだった。

 昨年11月、日韓は北朝鮮の核・ミサイル開発に対処する軍事情報包括保護協定(GSOMIA)を締結した。その担当閣僚が相手国との信頼関係を自ら損ねるような参拝をしたのは極めて問題だ。

 安倍政権が歴史問題に誠実に向き合う姿勢を貫かなければ、韓国の国民感情は好転しないだろう。