通常国会召集が20日に決まり、政治が始動する。

 「新しい時代にふさわしい憲法はどのような憲法か。今年は議論を深め、私たちが形作っていく年にしたい」。安倍晋三首相は自民党本部での年頭あいさつで、改憲への意欲をあらためて示した。

 だが待ってほしい。安倍政権への高い支持率とは裏腹に、早期の改憲には、多くの世論調査で国民の慎重な姿勢が示されている。

 安定した政権下での経済再生には期待するが、安全保障関連法の成立であらわになった立憲主義からの逸脱は認めがたい。それが多くの国民の本音ではないか。

 もちろん憲法は不磨の大典ではない。

 しかし改憲論議の前に求められるのは、現行憲法の価値、とりわけ戦後の繁栄の礎となった平和主義の理念を見つめ直すことだ。

 日本国憲法の施行から70年。節目にあたり、その原点を確認する。それが政治の役割だろう。

■政権延命のシナリオ

 「今年は酉(とり)年だ。12年前、あの郵政解散があった。私が初当選し55年体制が崩壊した年も、佐藤栄作総理が沖縄返還で合意して解散総選挙に打って出たのも酉年だ」

 首相は年明け後、解散の言葉をひんぱんに口にする。いくら予算成立が優先と強調しても、焦点となるのは当然だ。

 衆院の任期が折り返しを過ぎる一方、看板としてきたアベノミクスは既に限界を迎えた。米国の政権交代で環太平洋連携協定(TPP)は暗礁に乗り上げ、対ロ外交でも得点が稼げる兆しはない。

 好材料が見えない中、いつ総選挙に打って出れば議席の目減りを最小限に抑えられるか、計っているのではないか。

 自民党は春の党大会で総裁任期を延長し、首相は最長2021年9月まで続投が可能となる。次期総裁選での勝利のためにも総選挙を勝ち抜きたいのだろう。それが今年の政局シナリオの骨格だ。

 改憲への布石も敷いている。

 政府・自民党は昨年末、カジノ解禁を含む統合型リゾート施設(IR)整備推進法を駆け込み成立させた。地域振興策と期待する日本維新の会の意を受けたものだ。

 連立を組む公明党は、現行憲法の価値を尊重する「加憲」の立場を崩さず、首相が描く改憲への協力は見通せない。改憲に積極的な日本維新を取り込むとともに、公明をけん制する狙いだ。

 さらに政権側は今後、私学助成の合憲化など受け入れやすい論点で野党取り込みを図る構えだ。

 野党協力をめぐる民進党内の不協和音をにらみ、連立の仕切り直しを図るとの観測もある。その中で改憲の道を探るのだろう。そんな思惑が透けて見える。

■数があるから改憲か

 だがいま日本は、改憲という大仕事に取りかかる状況だろうか。

 安倍政権は「1億総活躍社会」を掲げるが、アベノミクスは非正規雇用の増大をもたらし、6人に1人が貧困に直面している。

 その格差を埋めるはずの社会保障は、少子高齢化と景気回復の停滞で将来像が描けない。

 暮らしに直結する予算が削られる一方、防衛費などは増え続け、財政再建への道はなお遠い。

 そんな中で政治が改憲ばかりに精力を注ぎ込むのであれば、国民の分断はさらに進むだろう。

 「変えた方がわかりやすいとかいろいろあると思うが、変えるための国民的なエネルギーを思うと有益ではないという気がする」

 戦後政治の生き字引と言われた宮沢喜一元首相は施行50年の1997年、中曽根康弘元首相との対談で、改憲を持ち出すことによる分断の懸念を指摘していた。首相はこの言葉をどう聞くのか。

■世界に先んずる一歩

 首相が最後に目指すのは、やはり9条改定だろう。世界に類を見ないこの条項を変え、日本を「普通の国」にするのだという。

 だが他の国に例がないからこそ唯一無二の価値がある。ノーベル平和賞の候補に挙げられるなど、世界から注目されるのもそのためだ。

 アフリカ大陸の西に浮かぶスペイン領カナリア諸島に、憲法9条の碑がある。スペインの北大西洋条約機構(NATO)加盟に反対し、非核都市を宣言したテルデ市が中心部の広場に掲げたものだ。

 「憲法9条は世界にとっての前進だ。核兵器と戦争が平和と同居する時代に別の可能性を示した。各国の憲法に盛り込まれるよう努力するべきだ」。設置に関わったサンティアゴ前市長はたたえる。

 憲法施行70年の節目は、その再評価のきっかけにふさわしい。

 近く国連で核兵器禁止条約の議論も始まる。日本は核保有国と非保有国の橋渡し役になれるのか。平和憲法の理念をそこに生かすことが安倍政権の努めではないか。