北朝鮮の故・金正日(キムジョンイル)総書記の長男金正男(キムジョンナム)氏がマレーシアで殺害された。金正恩(キムジョンウン)朝鮮労働党委員長の異母兄である。

 韓国政府は北朝鮮指導部の指示による犯行とみている。

 正男氏は正日氏の後継と目された時期もあったが、現在は北京やマカオなどに居住し、北朝鮮の体制とは関わっていなかった。それでも正恩氏にとって自分の地位を脅かす存在に見えたのだろうか。

 「偏執的な性格」とも言われる正恩氏は側近を次々に粛清してきた。同じ血筋の正男氏殺害にまで及んだとすれば、だれも信用できないことの表れだろう。

 正恩体制は堅固なのか、それとも不安定化しているのか。あらためて注視する必要がある。

 正男氏はクアラルンプール国際空港で体の不調を訴え、救急車で病院に搬送中、死亡した。

 マカオ行きの便に乗るため、自動チェックイン機で搭乗手続きをしていたところ、若い女2人が接近し、毒物を吹きかけたとの情報がある。

 複数の容疑者が逮捕された。北朝鮮の犯行ならマレーシアに対する主権侵害でもある。当局は全容解明に全力を挙げてほしい。

 正男氏は2001年、偽装旅券で日本に密入国し、強制退去処分になった。これが原因で後継争いから脱落したとみられている。

 かつて北朝鮮の3代世襲を批判したことがある。正恩氏は最高権力者の地位に就いた5年前から兄の命を狙っていたという。

 正恩氏は党や政府、軍の幹部らの粛清を相次いで行っている。韓国政府の推計によると、処刑された高官は13年に約30人、14年に約40人、15年に約60人と、その数は年々増えている。

 もはや粛清を重ねることでしか、政権を掌握する方法がないと考えているのなら、そんな恐怖政治が長続きするはずがない。

 正男氏は中国の保護を受けていたとされ、中朝関係が一層冷え込む可能性も指摘されている。北朝鮮の孤立化がさらに進めば、経済不振も長引き、政権運営はますます困難を極めるだろう。

 北朝鮮が生き残る道は核・ミサイル開発を放棄し、国際社会に復帰する以外にない。困窮する国民の生活に目を向けるべきだ。

 日本は、核問題の解決を目指す6カ国協議の再開や、停滞したままの拉致問題の解決に向けて、北朝鮮と対話をする努力を続けていくべきだ。米中韓との連携強化も欠かせない。