幕末の志士、桂小五郎(後の木戸孝允(たかよし))は剣の達人と言われる。動きが速く、立ち合うとコマネズミのようにすばしこかったとか。にもかかわらず、幕府の追っ手が近づくと、物乞いや虚無僧に化けて身を隠した。明治まで生き延びられたのは「逃げるが勝ち」を地で行ったためらしい▼水産学が専門の池田譲琉球大教授は、イカの動きが桂の行動に似ていると著書「イカの心を探る」で触れている。志士に失礼かもしれないが、貝の仲間であるイカは貝殻がない代わりに俊敏に動け、逃げ足が速い▼体の色を変えて海の中の風景に化けたり、群れたり。外敵から身を守る手段が豊かなのは目が良くて、周りの状況を分析する大きな脳を持っているからという▼まさか、人間の目をすり抜けるすべまで身に付けたわけではあるまい。昨季の北海道のスルメイカ漁が記録的な不振に陥り、加工業者を悩ませている▼捕れない原因は海水温の変動との見方があるが、はっきりしていない。不漁が続き、塩からや干物が食卓に縁遠くなるとしたら、とりわけ左党にはショックだろう▼金沢の業者が「カニもどき」ならぬ「イカもどき」を開発した。海藻を固めて作ったそうで、身の感じはそっくり。刺し身でも天ぷらでもいけるというが、本物に化けるわけではない。「イカさま」ならぬ「イカさまさま」と敬うほど貴重な存在になる前に、打つ手はないか。2017・4・21