19世紀後半、英国ロンドンで5人の女性が次々に襲われる事件があった。のどを切られ、臓器をえぐられる―。残忍な手口は共通していた▼ジャックを名乗る犯行文が通信社に届き、「切り裂きジャック事件」と呼ばれた。容疑者には犯行の手口から医師や肉屋が浮上したが、犯人は捕まらず、迷宮入りした▼時代は大英帝国の絶頂期。海外で植民地支配が進む一方、国内では貧富の差が深刻になる。庶民は憂さ晴らしもあって、この事件に関心を寄せ、報道する新聞を先を争って購入した。今でいえば劇場型犯罪に当たる▼犯人は単なる変質者なのか。時代背景との関わりはないのか。今も真相を探る著作の出版が絶えない。節目の年には、特集番組や関連商品の販売もある。事件から130年たつ来年は、どうなるだろう▼国内に目を向けると、人をあやめたわけではないが、思い出という大切な心の財産をずたずたに切り裂くような出来事が相次ぐ。各地の図書館で所蔵の学校史や記念誌が切り取られる被害である。主に生徒の集合写真や学校行事の様子を撮影した写真が狙われているというから、愉快犯だけではくくれない。学校生活に恨みがあったのかもしれない▼広範囲にわたるため模倣犯がいる可能性がある。むろん、切り取りは殺人とは違う。でも、そこに怖さを感じるのは、心の闇がゆがんだ形で表に出ているように見えるからか。2017・5・19