不老不死の霊薬「イシミツ」を探し求める忍者たちを描いた白土三平さんの漫画に、「〓(そ)」という食べ物が登場する場面がある。「牛乳を煮つめて濃厚にした、バターとチーズのまじったようなものであったのだろう」との説明がついていた▼舞台は平安中期。貴重で、天皇や貴族しか口にできなかったらしい。広辞苑は「酥」という表記で「牛または羊の乳を煮つめて濃くしたもの。練乳。酪。蘇」としている▼ちなみに「本塁上のきわどいクロスプレーこそが野球の醍醐味(だいごみ)」などの言い回しがある「醍醐味」も、「乳を精製して得られる最も美味なるもの」である「醍醐」のような味を意味するそうだ▼かつては高級品だった乳製品だが、今や庶民にとって身近な食材。種類も豊富になった。日本の食生活に欧米の文化が入り込んだせいもあろうが、メーカーなどが日本人好みの製品開発に取り組んできた努力も見逃せない▼日本と欧州連合の経済連携協定(EPA)大枠合意により、カマンベールなどソフト系ナチュラルチーズに低関税輸入枠が設けられることになった。欧州産のチーズが安くなるのを歓迎する消費者は少なくない▼心配なのは農家への影響だ。乳製品が日本に定着するまでの苦労は並大抵ではなかったはず。それを無にするようでは自由貿易の醍醐味も薄れてしまう。国産乳製品を育ててきた先人の努力を忘れてはなるまい。2017・7・17

(注)〓は「酉」へんに「夭」